ハーメルン
『旧題』 バイオハザード~インクリボンがゴミと化した世界~
00 『断片』 プロローグ
ジョー・ナガトの手記 ???
《速記文字による》
死ぬ前に一度は酒を試してみたい。
そう思って俺は、友達が店に隠していたボトルの一本を拝借した。
しかし飲んではみたが、さして美味いモノだとは思えなかった。
だが、“酔う”という感覚自体は悪くない。
そして酒を喰らいながら微睡み時間を潰していると、何故か古い過去の情景が脳裏を過った。
――――例えば俺達一家が、この街に引っ越しをした日の出来事とか、だ。
ガキの頃。不思議な事に引っ越しをしたその日に俺は、この初めて訪れた筈の街『ラクーンシティ』に対して、強い忌避感を感じた。
またその事が原因で、激しく泣き叫んだ日もあったと、親父が語っていた。
ふと、そんな出来事を思い出した。
今更だが、俺にはその日の出来事が、現在の状況を示唆してのける一種の虫の知らせのように思えた。
しかし本当に予兆が真実だったとしても、当時の俺に何が出来たのかっていう話になるのだが……まぁ、ままならないのが『人生』だ。
つまりこの状況はまさに、神が俺に与えた試練なのだろう。
そう考えると俺は心底、神と呼ばれる存在がクソに思えた。
知っての通り、このラクーンシティには現在、無数の
亡者
(
ゾンビ
)
共が蠢いている。
冗談のような話だが、生憎とこれが“真実”だ。
そして俺は今、まさに腹を空かせて至る所で呻き声を上げる怪物達の真っただ中に居る。
ウォーキングデッド
(
歩く死体
)
なんていうオカルトが文字通り跋扈する地獄に、独り置かれる事が俺に与えられた人生の試練とは考えたくなった。
まさに『泣けるぜ』という台詞しか出てこない。
あぁ、本当に泣けるぜ……クソったれ。
==========
この街に蔓延るようになった動く死体の事を、いつしか『感染者』と呼んだ。
奴らには昼と夜の区別が無く、ひたすら餌を求めてグルグルと無軌道に這い回り、白痴のように呻き散らす……故に、その姿はまさしく『不気味』。
――――とはいえ、今となってはそんな奴らに対する不気味さにも慣れた。
もはや目障りで、不愉快で、心底
ウンザリ
(
・・・・
)
する……そんな気持ちの方が先んじるくらいだ。
正直まともに相手してやる事、それ自体に飽いたというのが偽らざる本音であるし、何より俺もそろそろ他の連中に倣い、この辺でゲームセットする事を考えるようになった。
最初の頃はこのクソみたいな試練を乗り越えてやろうと気を張ったが、余りにも色々な事があり過ぎた。しかもこの先、俺にはこの世界で生き続ける事への希望を見出せる気がしない……そんな考えが頭に張り付くようになった。
――――加えて、俺の
記憶
(
・・
)
が正しければ遠からずこの街はソドムのように地図から消える。
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