ハーメルン
『旧題』 バイオハザード~インクリボンがゴミと化した世界~
05 『試練』 沈黙の脅威
このラクーン災害だが、発生の原因には複数の説がある。主流なのは“Tウィルス”がアークレイ山中の“洋館”から流出して、この麓にあるラクーンシティにまで広がった説。或いはラクーンシティの地下に作られた秘密の研究区画から漏れ出した説だ。
その人気からシリーズ内で幾度も設定の後付けやスピンオフが複数生まれた為、ジョーにしても正確な原因を特定する事は既に不可能。
そしてこの
所謂
(
いわゆる
)
『バイオハザード』という作品群だが、これには『映画版』も存在する。してその内容だが、仮にラクーンシティから生還に成功しても最終的に『世界の滅びに巻き込まれる――』という代物だ。
「本当、クソみたいな世界だぜ……。我ながら、この場所にいると気づいた時点で“自決”を選んでた方が賢かったかもな」
映画の要素を思い出した時、ジョーは思わずそこで、現状に対し足掻く己の有様を嘲笑った。
食堂の部分の探索を一通り終えたが、特にめぼしいモノは見つからなかった。
唯一、目を惹かれたモノがあるとすれば、それこそキャビネット棚の上に無造作に置かれた『タイプライター』と『インクリボン』の束だ。
それはゲーム内では状況のセーブが出来るアイテムで、その道具一式を見た時にジョーは改めて、己が厳しい現実の中に在る事を再度自覚させられたような気がした。
「――――セーブ、か」
状況が『ゲーム』なら、それは文字通り探索者に安堵をもたらす代物だ。設置された部屋に流れる専用のBGMさえ、未だに思い出す事が出来る。
しかしそれ故、今の己が立つ場所が“現実”である事を思い知った。
――――“セーブ”が出来るような甘い架空の世界ではない。
そんな憂鬱さに舌打ちを打つと、ジョーはその探索の最後に先ほど射殺したばかりの感染者の遺骸に意識を向ける。
目の前の3体と、彼らに喰われていた司祭の死体を除き、他に人の気配は無かった。
その場に在る食器と椅子の数に比べたらあまりに少ない。
(――――皆、逃げ出した後か?)
ふと、そんな事を思った時、ジョーは既に事切れた司祭の手の中に“銀の鍵束”があるのを見つけた。
「嘘だろ……」
ジョーは思わず目を瞬いて再度、それを注視した。
そして次に取るべき行動を予感して、それにひどくウンザリと溜息を吐いた。
ゲーム中の探索としては普通の行動だが、実際に行うとなると流石に強い抵抗があった。
しかしそれと同じくらい、『鍵』という要素を見ないままこの場を去る事にも強い抵抗がある。
「う、ぁ……、クソ……っ!」
結局、ジョーは食い荒らされて冷えきった老司祭の死体に、渋々と手を伸ばす事にした。
冷え切った死体に触れた瞬間、忌避から全身に鳥肌が立つのを感じた。
「……っ」
死後硬直した指を剥がすのは大変な労力が必要だった。
ジョーは込み上げる吐き気を耐えながら、ようやく『銀の鍵束』の入手に成功した。
☆
「ジョー、大丈夫か!? 銃声が聞こえたから、もしかしてと思ったんだが――――」
「あぁ。食堂の方で司祭とシスターが感染者になってやがったぜ?」
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