ハーメルン
それでも月は君のそばに
第10話

 一人の少女が、電車に乗っている。
 彼女の名は小日向未来、高校に入学するために上京してきた少女だ。
 桜舞う景色を車窓から眺め、しかしその向こうに乱立するビルにもうここが故郷では無いことを悟るものの、未来はどうでもいいと首を振る。
 彼女にとっては、もう故郷とはあの場所ではないからだ。
 望まぬ転校、誓いを果たせず置き去りにしてしまった幼馴染たち……そんな嫌な思い出に塗りつぶされた場所など、未来にはもはやどうでもいいのだ。
 やがて電車は駅に到着し、未来は人の流れに押されるようにしてホームに降り立つ。広い駅構内に若干戸惑いながらも、未来は目的の場所へとやってきた。

「……」

 自分が落ち着きが無くなっているのが分かる。心臓もドキドキと早鐘のようだ。
 当然だ、未来は今この瞬間のためにこの1年近くを努力し、リディアン音楽院へと合格したのだから。
 そして、その間違えるはずのない声が未来の耳を打つ。

「未来~~!!」

「響ぃ~~!!」

 手を振りながらこちらへ走ってくる響。
 久方ぶりに見る本物の響だ。一緒に過ごした記憶のままの響を見た途端、未来は抑えが効かなくなる。
 思わず走りだした未来は、そのまま響へと抱きついた。
 その感触に、未来にやっと故郷に帰ったかのような安心感が湧き上がる。

(ああ、やっと私は響のいるところに戻ってこれた……)
 
 そんな言葉を考えつつ、未来は響との再会を喜ぶ。

「やっと会えたね、響!」

「うん!」

 手紙やメールでのやり取りは頻繁にしていたが、こうして直接会うのはあの別れ以来だ。2人はたわいのない話から近況報告と様々な話をしていく。

「じゃあ響は寮じゃないんだ」

「うん。あの一件以降、一応国に保護されてる状態だから……大丈夫、すぐ近くだから未来も遊びにくればいいよ」

「そっか……それで、信人のほうは?」

 そんな話をしながら、話題は信人のことになる。

「ノブくんは今ちょっと忙しいんだけど、未来には絶対に会いたいって言ってたよ。
 夕方には戻れると思うから後で合流して一緒にごはん食べようって」

「そっか、忙しいんだ。
 バイトとかやってるの?」

 そう未来が聞くと響は少し目を泳がせる。

「まぁ、バイトって言えなくもないかな。 お金ももらってるし……」

「?」

 響の歯切れの悪い言葉に、未来は首を傾げた。


~~~~~~~~~~~~~~~


 夕暮れ迫る山間部の村に、連続した銃声が響く。
 突如として発生したノイズの集団に対し自衛隊が攻撃を仕掛け時間を稼ぐが、その攻撃はまるで効果がなく、ノイズの歩みは止まらない。

「装者はまだか!」

「それが、他方面のノイズ掃討がまだ完了しておらず、こちらへの到着は……」

「くそっ! おい、撃ちまくって一分一秒でも時間を稼げ!!」

 止まらないノイズの歩みに悲壮感すら漂う現場、だがその現場にバイクの爆音が響きわたる。

「こ、このバイクの音は!!」

 その音はまるで福音のラッパのように、たったそれだけで現場の悲壮感漂う空気を吹き飛ばした。

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