ハーメルン
それでも月は君のそばに
第16話

 病室にやって来た響から飛び出したのは、衝撃的な、そしてある意味では真っ当な話だった。俺はその言葉を飲み込むようにひとつ頷くと、響に尋ねる。

「……何でシンフォギアの装者をやめようと思ったのか、聞いていいか?」

響は俯きながら、ゆっくりと答えた。

「ノブくんを大怪我させたとき、私は『全部壊れちゃえ!』って思って剣を振り下ろしてた。
 ノブくんがいなかったら私、あのネフシュタンの鎧の女の子を殺してたかもしれない。
 『怖い』んだ……シンフォギアの力でまたノブくんを、それに他の誰かを傷つけちゃうんじゃないかって……」

「なるほどな……」

 俺は納得できる話に、大きく頷いた。
 至極もっともな話だ。そもそも、大きな力を持ったからと言って『はい戦います』と昨日まで普通の日常を過ごしていた人間が、いきなり戦場に出れるという今までの響がある意味では『異常』だったのだ。その異常性と危なっかしさは、以前翼に指摘された通りである。
 しかし……。

「でもさ……響は目の前でノイズが現れて、ノイズを倒す力を持っていながら人助けを止められるのか?」

「それ……は……」

 俺の言葉に響は口ごもる。
 響は『趣味が人助け』と言ってしまえるくらい善良な人間だ。仮にシンフォギア装者を辞めたとしても、その気質は変わらないだろう。そこからただ単純に『力』だけ無くしたとしたら、『ただの無鉄砲』が完成するだけだ。
 それに現実問題としてあのネフシュタンの鎧の少女の件もある。
 彼女、そしてその背後にあるであろうクライシス帝国は響の身柄を欲していた。そんな状態で響が戦う力を失うのは危険すぎる。

 ……いや、本音を言おう。俺は、『シンフォギアを纏って戦う響』が嫌いではないのだ。
 だから、俺は思ったままのことを口にする。

「……なぁ、響は初めてシンフォギアを纏った時のことは覚えてるか?」

 頷く響。たった一ヶ月少々前の話だ、もちろん忘れてなどいないだろう。

「その時の響は、誰かを傷つけようなんて思ってなかった。ただ純粋に『守りたい』と思って戦ったのを俺は知ってる」

 迫るノイズの恐怖に泣く幼い少女を抱きかかえ、その命を守り抜くために拳を握りしめていた響。
 その姿は、俺にも鮮明に焼き付いている。

「シンフォギアは、響の歌は誰かを傷つけるためのものじゃない。響の手は誰かを傷つけるためじゃない、誰かの手をとり救うためのものだって俺は知ってる。
 今までの戦いでお前の手は、もうたくさんの命をノイズから救ってきたんだ。誰かの生きる明日を、お前はその手で守り抜いてきたんだ。
 守ることと戦うこと、この相反する2つのことのジレンマは恐らくきっと終わることはないだろうけど……守るために伸ばした響の手は間違っていない。
 だから……力を怖がらないでくれ」

 言っていて、自分が卑怯なことを自覚する。
 響は平和に安全にいて欲しいと願いながら、『戦場でも響が隣にいてくれることの喜び』、そして『誰かを守るために頑なに戦う響の美しさ』を知っている俺はそれを求めてしまっている。この矛盾する想いを俺は自覚していた。
 すると、響は神妙な顔で頷く。

「……わかった。もう少し、しっかり考えてみる。
 私がやれること、やりたいことを……」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/6

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析