第4話
今日はツヴァイウィングのライブ当日だ。
「あっ、ノブくん!」
「よっ、響」
待ち合わせの場所で俺を見つけて走ってくる響。
響は女の子らしい可愛らしい恰好だ。ちなみに俺は白の光太郎ルック。白の指抜き皮手袋は外せません。
俺は走ってくる響に手を振って答える。笑顔で走ってくる響を見ていると、なんだか人懐っこい大型犬のようなイメージを思い浮かべてしまい、クスリと笑ってしまった。
「あれ、未来は?」
「ああ、俺も探してるけど見当たらなくてな」
そう言って周囲を見渡すがそれらしい姿は見えない。しっかり者の未来らしくないと俺は首を傾げる。
「じゃあ私電話してみるね」
そう言って響はすぐに携帯をかけ始めた。
「未来、いまどこ? 私とノブくんもう会場だよ」
響が電話をしている間、俺はボーっと周りを見渡してみる。
「えっ、どーして!?」
「ん?」
突如、隣で電話していた響が素っ頓狂な声を出す。
何事かと見ている俺の前で響は電話を終えると、ため息をついた。
「未来、叔母さんが怪我したらしくて家族で今から行くことになっちゃったって。
だからライブには来れないって」
「一番楽しみにしてたのに、残念だな」
「私って呪われてるかも……」
「おいおい、俺が一緒じゃ不満なのか?」
そんな風に少しふざけて意地悪く聞いてみると、響はブンブン首を振る。
「そ、そんなことないよ!
ノブくんと二人っきりなんて、なんかデート見たいで嬉しいかな、って……えへへ~」
「そ、そうか……」
少し顔を赤くしながら言う響を見ていたら、こっちも顔が赤くなるのを感じる。
幼馴染として一緒の時間がそれこそ物心ついたころ辺りまで長い俺と響、当然気の置けない友人であるのだが、最近こういう響のふとした言葉や動作に思わずドキリとする瞬間がある。
『意識している』、という自覚はある。だが、この感情を言葉という形にするのはまだまだ難しい。
……ちなみに未来は同じ幼馴染だし大切な友達ではあるんだが、そういう浮ついた感情がどうしても沸いてこない。響とは違う方向で負けないくらい美少女の未来なのだが……時折、響を見ている眼が何やら重い想いに溢れていて怖い。それでもってそんな時に俺を見る眼はもっと怖い。なんか『宿敵』でも見ているような眼なのだ。
もしかして未来は響のことを……いや、考えるのはよそう。
……なんだか未来の視線を思い出したら寒気がしてきた。
ブルブルと頭を振ってそれを振り払うと響に話しかける。
「それにしても……すごい人数だな」
「だね」
周囲は人、人、人、どこを見ても人だらけだ。これがすべてツヴァイウィングのライブの客だというのだからすごいものである。
「何だか俺たち、場違い感が凄いな」
「あはは……」
ツヴァイウィングのチケットは大人気で完売御礼だというから、ここにいるのはみんな熱心なファンなのだろう。そんな中にツヴァイウィングのことをあまり知らない俺と響はある意味異分子だ。
ライブは初めてということもあり、少しその熱気に引き気味な俺たちである。
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