ハーメルン
やはり伝説の餓狼達が俺の師匠なのは間違っているだろうか。
高校生活を振り返って その6
土曜日の昼下り、午後一時を過ぎた頃にその二人は我が家に訪れた。
和服姿の少しきつ目の眼差しが如何にも遣り手感を醸し出している。
若い頃はさぞかし美しかったのだろうと容易に想像でき、流石は県議とはいえ政治に携わり、この千葉の建設土木業界に於いては知らない者は居ないであろう雪ノ下建設社長の令夫人。
そして、入学生の日に俺が由比ヶ浜ん家のサブレを助ける為、道路へ飛び出しライジングタックルをかまし破壊してしまった車に乗り合わせていた少女。
入学式に於いて新入生代表とし凛々しく責務を果たし、全校生徒に堂々とその存在感を示した少女、雪ノ下雪乃。
しかし俺はその事故の時、彼女に対し事故に巻き込んでしまった事を謝罪した際に感じたんだよな、この雪ノ下雪乃と云う少女は、他者に対し壁を作り踏み込ませない様にしているんじゃないかと。
頑ななまでに、自分のテリトリーを死守しているかの様な感じか…。
それが俺の思い過ごしか正解かは、現時点では何とも言えないがな。
その後の、会談は極当たり前の挨拶から入り、母ちゃんが代表を務める我が比企谷家、ガハママが代表の由比ヶ浜家、そして雪ノ下婦人の三人が互いに非は己にあるとして謝罪合戦を繰り広げ、このままでは黄金聖闘士同士の戦いの如く千日戦争になるんじゃね…と俺は内心アホな事を考えていた。
「結衣さんでしたね、散歩中に手綱を手放した貴女の責任は確かにあります、それは解りますね。」
雪ノ下婦人は由比ヶ浜へ、そう問いかけ、由比ヶ浜は神妙にも姿勢を正し「はい」と返答をした。
「八幡君、貴方の身を呈してまで小さな命を救おうと行動を起こした、その勇気は評価に値すると私は個人的には思います、ですが後先を考えない行動により被害を被った者が居ると言う事も事実ですよ。」
俺の顔、眼を確りと見据えて雪ノ下婦人は諭す様に語りかけてくれた。
俺も由比ヶ浜同様に「はい」としか言えなかった。
俺と由比ヶ浜の返事を聞き、雪ノ下婦人はそれ迄の事務的な表情を崩し、柔らかな微笑を湛えた表情を俺に向けてくれた。
「都筑から報告は受けていますよ、八幡君の言動は…貴方は都筑へ事故に対する謝罪をきちんとした上で、結衣さんへの忠告も行い、更に雪乃に対しても謝罪をしてくれたそうですね。」
その優しさを湛えた雪ノ下婦人の言葉に、俺は「…いや、その、ですね…。」と意味をなさない様な単語を頭を掻きながらボソボソと発する事しかできなかった。
「はい、確かに私は彼から謝罪を受けました。」
雪ノ下は事実をありのままに偽り無くそして、簡潔に己の母親に対し返答をする。
それを確認する様に軽く頷き、雪ノ下婦人は家の母ちゃんとガハママへと向き直り宣言する様に語った。
「私は決めました、比企谷さん、由比ヶ浜さんこの度の事故、我が家の車の修理費についてですが、私としては貴女方にそれを問おうとは思っておりません、当然それは当方の保険より賄うものとします、元よりそのつもりでしたしね。」
「ですが雪ノ下さん、それでは貴女方が一方的に損をしてしまうだけではないですか、元を正せば家の娘が原因で起こった事故ですし、我家も何らかの処罰を受けて当然だと私は覚悟しています。」
「そうですよ雪ノ下さん、結果的に家の愚息が車を壊してしまったんですから家も弁済をして然るべきだと私も思いますけど。」
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