第8話 最初で最後の公式戦
中学3年で正式な部になって、人数も揃って、初めて出場した念願の公式戦。
中学の――最初で最後の公式戦が今 終わりを告げた。
第1セット 25-23。
第2セット 25-19。
初出場のチームと優勝候補のチームの点差ではないと客観的には思う。
いや、それどころか出来すぎだとすら思う。
皆が持ちうる力を最大限に発揮した。出来ることのすべてを出した。
バレー経験の無い選手も、別の運動部で培った技術(主に足技)でチームに貢献してくれた。時にはファインプレイさえ出た。
本当によくやったと思う。自分でも誇るべきだとも思う。
だが…… ズキリ、と身体の芯に響くものがあった。
【――……痛いな】
負ける痛み、悔しさ、辛さ それらは慣れる事はないし、慣れたくはない。
いつだって悔しいし、いつだって痛い。
あの時、あの場面で、あの一瞬をもっともっと追えていたら。もっと一歩前に進めていれば、まだ違ったかもしれない。
――たら、れば にはなるが、何度でも言える。尽きる事がない。 みっともなくても、男らしくないと言われても、どうしても思ってしまう。
悔いが少しも残らない様な負けは、自分自身もまだ経験していないから。いつだって残るものだったから。
そして、きっと誰よりも思い入れが強く、勝利に対する飢えが強かったのは日向だ。
これは初めての敗北の経験。
故にその辛さや苦しさ、悔しさは人一倍あるだろう。
「ッ……、ッ……」
立ち尽くすキャプテンの日向。
スコアボードを何度見ても、その点が変わることはない。
部員不足で部活動から愛好会へ、実質つぶれていたも同然の雪ヶ丘バレー部を復活させた男でもあるからこそ、思い入れが強く、そして勝ちたかった。皆と一緒に勝ちたかったんだ。
日向に なかなか声を掛ける事が出来なかったのは、直ぐそばにいた泉と関向。
彼らは、今日のぶっつけ本番でバレーに参加してくれた急ごしらえの助っ人。本来の部ではなく、人数合わせのつもりで来てくれた。
だが、それでも……思う所はあるのだろう。目元が薄っすらと滲んでいた。
無理と言われていたが、それでも勝ちたかった。
そう言っている様にも見えた。
「……さぁ、皆 整列だ。ほら 翔陽も」
唯一、遥か遠い昔に、もう戻る事の出来ない場所にて経験を重ねている火神が、声を掛けていた。自分が支えなくてどうする、とも思っていた。
火神自身も痛い。そして日向の胸中も十二分に理解しているし、自分自身で自問自答を何度も頭の中で繰り返し行っているのだから。
だが、締めなくてはならない所はある。礼に始まり、礼に終わるのがスポーツなのだから。
立ち尽くす日向の肩に手を置き、そのまま連れて行こうとした時だ。
「お前は何で……。何でそんなとこにいるんだ!?」
ネットを挟んだ先。
この先も試合が待っている。長くコートに立つ者。
勝者と敗者で分かたれたコートの勝者側にいる北川第一の影山が声を掛けてきた。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/6
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク