スリザリンの男の子
僕の学生生活は、最初から失敗していた。
それがどんな存在であれ──つまり、それが望まないような血筋であるという場合でも──自分達の寮に振り分けられた事を歓迎しているのに、その人間が『この寮には来たくありませんでした』という絶望的な顔をしていれば、そりゃあ失敗方向に全力で突っ走るのも解りきった話だ。
だが、それは余禄に過ぎないと言える。
たとえその場合であっても、レイブンクローやハッフルパフならば、後から挽回する事について多少の希望は持ち得ただろう。だがよりによって僕が組分けされた寮はスリザリン、純血主義にして貴族主義の寮であったのだ。僕は最初から失敗を予見し──或る意味ではその通りになった。
聖なる二十八という偏見に塗れた区分はさておき、魔法社会というのは広くて狭い。
すなわち、魔法族は非魔法族のように小さく群れて住む必要が無い一方、姿現し・移動鍵という移動能力に加えて単純な数の問題故に──魔法族がロンドンを闊歩するのにダイアゴン横丁だけでほぼ足りる事を考えてみれば良い──殆どが少なからず顔見知りであるのが当然だった。
言い換えれば、古くから存在する〝純血〟であれば、対立関係の有無を問わず互いの存在を認知する事は不可避的であり、逆に言えば、そうでない者は〝純血〟だと言えない事など考えるまでも無い程に明らかだった。
つまるところ、彼等は単純に姓名を聞くだけで、その者が純血で無いか否か──身内として迎えるべきか否かを殆ど判断可能であり、更に御互いの先祖の歴史について少しばかり会話をすれば完璧に識別可能であるとすら言えるのだ。
それは彼等が本能的に備えた能力であり、その事は別に驚くに値しない。非魔法族の貴族とて、少なからずそう言った面があるのだ。であれば、古き因習を色濃く継承してきた魔法族が、どうして逃れる事が出来ようか。
要するにスリザリンの性質として挙げられる団結主義は、入学前からの家族ぐるみの交流に強く依存するものである事は否定し得ないのだ。そして言うまでも無く、それらは非魔法族ないし半純血が余り持ち得ないものである。つまるところ、スリザリンに組分けされたその種の者達は、事実上ハンデを背負っていると言っていい。
もっとも、救いかどうかは知らないが、彼等にとって親戚関係と看做す範囲は広い。ほんの数百年遡って、彼等の由緒正しい家系図の中に相手の家名を見つけられれば──すなわち、何の問題もなく嫁いだ人間が居れば、彼等は当然に親戚扱いをする事だろう。
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