第0回 神話・地下室・恩讐
神話とは。勝者が自らの都合がいいように塗り替えた、歴史の一側面である。
……なんて言えば、それは一部の人達に批判されてしまうのだろう。信じるものは救われる。そう言った意味では、批判している人達は幸せなのかもしれない。
しかし、だ。そうして批判してくる人たちも、どこまで信じているのだろうか。
この世界に、神が存在すると信じているのか。
その物語が、この世界の誕生を記す記録だと認識しているのか。
崇高なる存在が悪逆を討ち、今と言う平和を作りだしたと感謝しているのか。
それが、奇跡によって人類に残された真実であると。そう、受け入れているのか。
それはさすがにないだろう。
確かに彼らには人間味があるだろう。個人の都合によってあれやこれやとする様は、どこか隣人らしさを感じてしまうのかもしれない。だが、それでも。そんな自分たちにとってどこまでも都合がよすぎる物語が、正しくあるモノか。
では、そんなきれいごとは誰が紡いだのか。当然、当時の支配者が。
では、どのようにして紡がれたのか。当然、自分たちの行いを正しかったのだと主張するように。
では、真の悪は存在したのか。―――そんなものは、存在しない。
悪なる部族を滅する英雄たちは、無辜の民を滅ぼしその財を奪う略奪者であり。
世界へ刃向かう大逆人を封じる地下世界は、自らにとって都合の悪い存在を閉じ込める地下牢であり。
全の頂点へ君臨する存在は、周辺の全てを滅ぼし、征服した大量殺人鬼に他ならない。
虚構、偽り、偽証。まさに偶像によって織りなされた、都合のいい物語。それこそが神話であり、全世界へ知れ渡る大人気小説。
しかし、そんな歪が長く持つはずもない。
ピシリ、と言う鈍い音。黄泉と現世を隔てる大岩に、ひびが入った。
ボトリ、という落下音。囚人へ毒を垂らす蛇は、その生涯を終えた。
バタリ、と人の倒れる音。多くを幽閉した奈落は、囚人によって殺された。
そして……
「ねぇ、貴方は」
「ありがとう」
パキン、と。甲高い音を立て、四肢を拘束する枷が砕け散り。
「君のおかげで、僕は復讐を遂げられる」
誰からも祝福されるべき英雄が、悪逆の宣言をした。
さぁ、語るとしよう。ついに偽り続けることが出来なくなった、真実の一端を。表舞台に顔を出した、哀れな被害者たちの復讐を。
為政者にとって都合が悪く、地下深くへと閉じ込められた極悪人達。
勧善懲悪と言う戯言のために悪へと貶められた、真なる善人たちの物語を。
幾千、幾万という年月を超えて達成される、恩讐の物語を。
「最も……恩讐に身を任せちゃった時点で、彼らは本当に悪役になるんだけど」
悪であれかしと望まれ、迫害された者たち。彼らの本質が、悪に染まる。
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