第十回 こたつ
「ぶえっくしょい!」
あまりにも酷いくしゃみと共に目が覚めた。肌寒さを感じて、自然と体が丸まる。掛け布団を求めて足を動かすも、それらしきものは引っ掛からず……
「って……こたつ、じゃん」
諦めて目を開けると、炬燵の中にいた。布団を上げると、その中は真っ暗闇。電源なんて入っていない。
「どこのバカだ、この12月にこたつの電源を切ったのは」
「手元を見てみろ」
「ん……あ」
そこには、楕円状のスイッチがあった。試しに親指で押してみると、「切」の文字が「入」に変わる。
「なるほど、この事件すべて解決した」
「これで解決してなかったら大問題だ」
「俺にはわかったぞ、犯人が」
「オマエが知らなかったことが問題なんだよ」
全ての言葉があまりにも辛らつに打ち返される。
「というかだな、お前もお前だぞ。テスト明けに遊びに来た友人に毛布の一枚くらい恵んでもいいだろ」
「『何言ってんだこたつ様は万能寝具だぞ~?』
つって拒否したあげく自分で電源を切ったバカに恵むものは何一つない」
なるほど、確かにそんなバカへ恵むものなど存在しない。また一つ納得させられてしまった。
「しっかし、そんなバカみたいなことをこの俺が言うわけなくないか?寝落ちした友人を見捨てた冷たい男がいるんじゃないのか?」
「こたつの上を見ろ」
ようやく体を起こし、天板の上を見る。
そこには、所狭しと並べられた酒瓶があった。
「え、何、昨日ここで大宴会でも行われた?」
「4割はオマエだ」
「マジか」
また一つ、この状況を納得せざるを得ない証拠が飛び出した。ビールにワインに日本酒にウヰスキー。こんな種類ちゃんぽんして大量に飲めば、酔いもする。人間だもの。
「あれ、じゃあ残りの6割は?」
「オレが飲んだ」
なんでこいつしっかり寝巻に着替えてベッドで寝てるんだよ。ザルってレベルじゃねぇぞ。
「ま、いいや。メシにしようぜ」
「一応人の家だってわかってるか?」
「分かってる分かってる」
「はぁ……シーフードか味噌、醤油、塩」
「シーフード」
言うが早いか、円筒状の容器が2つ投げ渡される。お湯を注いで3分で完成するお手軽料理。酒を呑んだ翌日と言えば、やはりラーメンだろう。
それぞれ蓋を半分開けてお湯を注ぎ、スマホでタイマーセット。と、目の前にカップが置かれる。
「なんだ?」
「アイス。糖分補給と、出来るまでのつなぎ」
「糖分補給だ?」
「酒飲んだ翌日は、塩分水分糖分」
「ラーメンでよくね?」
「こたつに暖房にアイス」
「神の発想じゃねぇか」
そうと決まれば、否はない。エアコンのリモコンを手繰り寄せ、設定温度を2度上げる。蓋を開け、スプーンを刺して一口。
うん、至福。
=〇=
「よっし、勝った!」
「あー、今の入らないかぁ」
アイスとカップ麺を食べて、そのままこたつを出ることもなくゲームを始めた。お互いに殴り合って殴り飛ばす、みたいなゲーム。そうがっつりやっているわけでもないのでノーガードの殴り合いにしかならないのだが、思いの外面白い。
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