第一回 卒業・新しい生命・桜並木
「あー、思ったより疲れたなぁ」
帰ってくるなりソファに倒れこんで、思わず声を漏らす。
こういうことをすると痛みそうな気もするのだが、そんなことは気にしていられない。何せ、疲れたのだ。
自分ではまだまだやれる思っていたのだが、運動をしないと簡単に体力なんて落ちてしまうんだな、と。この数時間でそんな現実をまざまざと叩きつけられた。
「けどまぁ、せっかく埋めたんだもんな」
掘り返さないんじゃ、意味がない。最終的にはそんな義務感のようなもので掘り続けた。高校卒業の日、恋敵であり友人だったヤツと一緒になって埋めた、お菓子の缶。
せっかくだから思いっきり掘ろうぜ、なんて言って。学校を卒業したのだ、というテンションでアイツは馬鹿みたいに掘っていた。掘って、掘って、掘って。気が付けば俺やアイツの身長と変わらないくらいの穴が出来ていて、二人して笑ったものだ。
「盗られるかも、とか言って掘ったけど。誰が盗むんだよこんなもん」
改めて土にまみれた缶を取り出す。取れる限りは掘り返した時に落としてきたが、それでも完璧ではない。10年もの間地面の中にいたのだ。水で洗い流すでもすればともかく、手作業で落としきれるはずもない。
だが、正直そんな土汚れすらもうれしかった。穴に腰掛けながらスコップにもたれかかるアイツと笑った時のことを思い出せて、愛おしくすら思ったほどに。
「さて、と」
とまぁ、そんな回想は終わりだ。新聞紙をとってきて広げ、その上に缶を置く。開きづらくなっているそれに指をかけ、持ち上げる。しばらく抵抗はあったが、それでもちゃんと開いてくれた。
中身は無事だろうか。覗き込んで、ほっと一息。二通の便箋がそこには健在だった。俺とアイツ、それぞれの宛名が書かれた便箋。何を思ったのか、お互いに10年後のお互いへ手紙を残そうということになって,
やはりこれも卒業式後のテンションで書き上げた。
「ダメだなぁ、一動作一動作懐かしくなる」
うれし涙が溢れそうになるのを抑えて、便箋を手に取る。二度と受け取られることのない手紙は、置き去りにされた。
「おっ……なんだ。結構真面目に書いてるじゃん、アイツ」
どうせあの場のノリで雑ーに書いてるもんだと思ってたのだけど、いやはやなんとも。見直しそうになるくらいちゃんとした手紙である。
『拝啓、って書くのも変な感じだな。
まぁなんにせよ。久しぶり、10年たったけどそっちは
どうだ?いやそもそも、ちゃんと10年たってるのか?
お前って結構せっかちだったから、我慢できなくなって
掘り返してたりしないだろうな?』
のっけから随分と失礼じゃねぇか、コイツ。ちゃんと10年たってから開封しているというのに。
『図星だってんなら、今すぐしまって埋め直せ。
俺だってタイムカプセル掘り返すの楽しみにしてる
んだからな。そうじゃなかったんだとしたら……
あー、すまん。まぁ許せ』
仕方ないので許してやることにした。
『それにしても、10年。10年かぁ……想像もつかないな。
俺もお前ももう合格出てるし、大学卒業して、働き
始めて暫くたった……とかか?だったらどうだ、もう
慣れたか?』
慣れた―――と思ったらやることが増えて、のイタチごっこだよ。正直、一生慣れることはなさそうだ。
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