狼犬疾走
走る。
スラムを超え、荒野の向こう。レユニオンのアジトへと一直線に。
時間は無い。スラムの噂話からして、あと少しでロドスと龍門が動き出す。その前にスカルシュレッダー―――アレックスに弁明しなければと、カイナは風のように疾駆していた。
「……らしくもないよな、“誰にも死んで欲しくない”なんてさ」
アレックスもミーシャも、ロドスに行けば延命は出来る。
足掻く意味はある、信条を曲げる価値はあると説得しなければならない。
「おいそこのお前、止まれ! 此処から先は―――」
「待て、アイツは……」
「後でな、今は邪魔だ」
下っ端を相手にしている余裕は無いと無視して突入し、その先へ。
特徴的なフードとガスマスクの少年の元へと走り抜けた。
銃剣付きのロケットランチャーを手に持ったまま、現状を聞いたスカルシュレッダー。だが、その反応は芳しいものではなかった。
「……それで?」
「ミーシャはもう余裕がない。すぐにでも治療を開始しないと……」
「だから、それで?」
「それでって……」
「ロドスに姉さんを渡すと? 納得すると思ってるのか、お前」
首元に突き付けられる銃剣。切っ先を振るうまでも無く、そのまま引き金が引かれれば一発で終わってしまう状況。
腰が引けそうで、震えが止まらない。けれど、やらなければ。
「納得しなくてもいい、生きていれば次がある、だから今は――――」
「次なんかどうでもいい。俺達はアイツらを信用していない。そして信用する気もない」
「……」
「同胞が何人やられたか知ってるか? アイツらは俺達を守るどころか、殺したんだ。信用なんかするものか」
殺意が増す。周囲のレユニオン兵の憎悪が燃え上がる。彼らには次も後もない。ただ復讐をしたい一心、そこから先なんて考えてもいないから、揺るがない。
何者よりも全てを蝕んで、そして栄光や幸福すらも捧げて燃料にする絶大な情念。それこそが、復讐心。
負の力の絶大さは、他者の横やりを許さない。
「……姉貴は、いいのかよ」
「ああ」
「お前の復讐に、付き合わせていいと?」
「アイツらに保証の無い場所へ連れて行かれる位なら、一緒に死ぬ」
「…………そう、かよ」
もう駄目だ。そう直感し、カイナはすぐさま諦めた。
首元の銃剣を歯牙にもかけず、スカルシュレッダーへ背を向ける。
「……勝手にしろよ、俺もそうする」
突き放し、捨て台詞を一つ。ほんのさっきまで持っていたはずの死んで欲しくないという願いを削ぎ落とす。
そのまま、今にも襲いかからんとするレユニオン兵の間をすり抜け、最短経路で走り去った。
◇
誰にも死んでほしくなかったけれど、自分も死にたくなかった。
両方を選べるだけの力なんて何処にも無いから、自分を選んで。
そして、失敗し続ける。
急いで戻ったスラムの診療所。もぬけの殻なだけではなく、そこに医療施設があったこと自体嘘だったかのように瓦礫の山と化していて。
嫌な予感が総身を駆け巡った。
「――――ミーシャッ!!」
瓦礫の山をアーツで砕きながら音響探知を行い探していく。だが、人型らしい反応はどこにもない。音響が届かないほど下にいるのか、それとも……と。
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