第13話 見てのとおり魔法詠唱者だ
「村を襲撃した者達からの、完了報告が来ない?」
ニグン・グリッド・ルーインは、隊員からの報告を受けて首を傾げた。
手はずとしては、まず帝国騎士に偽装させた者達が王国外縁の村を襲撃し、住民殲滅後に離脱。王国戦士長のガゼフ・ストロノーフが駆けつけたところを、ニグンら陽光聖典が強襲し、殺害するのだ。そうなっていた。
前回の村落襲撃ではタイミングが合わずに失敗したが、今度は上手くやれるはず。
そう考えて街道外にて潜伏していたのだが、村を襲撃した者達からの報告がない。
報告に関しては陽光聖典の隊員が村に近づき、襲撃隊の隊員が出てくるのを待って接触するというものだったが、誰も出てこないのだと報告に来た者は言う。
(成功はしたが、殺戮に夢中で報告を怠っている可能性。有り得るが。……いや、ないか。襲撃隊は隊長に問題があるものの、副隊長は勤勉な男だ。兵の一人ぐらいは寄こすだろう)
ニグンは思案しつつ顔を指で撫でた。
顔面を走る傷跡。
かつて亜人の村を殲滅した折、王国のアダマンタイト級冒険者らと戦闘になって受けた傷だ。魔法治療で消すこともできたが、屈辱を忘れない為に残しているのである。
いつか借りは返してやる。
決意を新たにしたニグンは、次の可能性について考えてみた。
(襲撃隊が全滅している場合。一人の離脱者も無しにか? その様な戦力を、開拓村に常備しているなど、それこそ有り得ん話だ)
この度の襲撃が事前に察知されており、その対策が成されていた結果……襲撃隊が全滅している可能性。
それも無いだろう。
何しろ、王国貴族共は愚昧だ。
ちょっとした調略で、くだらないプライドを刺激され、王国最大戦力たる戦士長から最強武装を取り上げるほどなのだ。今更、戦士長に有利となる行動を取るはずがない。
「隊長。如何なさいますか?」
「ともかく、村に行ってみないことには解らんな」
ニグンは報告に来た者と、周囲で待機する隊員らを見回した。
皆、自分と同じく金属糸で編んだ衣服鎧を着ている。その数は四四人。
これまで数々の亜人村を滅ぼしてきた精鋭達だ。弱体化したガゼフが相手ならば、十分に倒しきれるだろう。
ニグンは刈り上げた金髪の頭部を一撫ですると、マントをバサリとはためかせた。些かオーバーアクションだとは思うが、一隊を率いる者には演出が必要なのだ。
「三人送り出して村を偵察する。殲滅が完了していれば良し。予想外の敵戦力があって襲撃隊が全滅していた場合。相手の戦力を把握して戦うかどうかを決定する!」
「なかなか的確な判断だ。手堅いと言って良いだろう」
その声は、少し離れた位置から聞こえた。
ニグンが、そして居合わせた陽光聖典隊員の全員が声のした方を振り向く。
茜色に染まりつつある空の下……草原に立つ五つの人影。
中央で立つのは豪奢な漆黒のローブを身につけた、魔法詠唱者と思しき男。顔は平凡だが、魔法を使うのであれば油断することはできない。
その男の向かって右に位置するのは、漆黒の甲冑を纏い、カイトシールドと巨大な斧頭を持つ武器を装備した者。こちらは見るからに戦士職だが、装備の高級さが凄まじい。油断するべき相手ではないようだ。
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