第4話 ヘロヘロさん、貴方は
時間は少し遡る。
モモンガに促され、玉座の間に居残ったソリュシャンは、己の創造主たるヘロヘロの前に立っていた。そして跪く。
「我が創造主、ヘロヘロ様。こうして御帰還いただけたことは、私にとって、そしてナザリックに存在する者すべてにとって至上の喜びです。ここに改めて永遠の忠誠を捧げることをお許しください。そして、そして可能であれば、もうナザリックを……私どもをお見捨てなきよう。お願い申し上げます」
「う、うん……」
顔を伏せ忠誠を誓うソリュシャン。その彼女に近づき、ヘロヘロは不躾ではあったが舐めるように見回した。
ソリュシャン・イプシロンを作成するにあたって設定した、金髪、ロール髪、はち切れんばかりの大きな胸。そして露出度の高い黒メイド服。すべて自分の理想とする美だ。
暫くソリュシャンを眺めていたヘロヘロだったが、相手が返事を求めていることに気づいて唇を湿らせた。今の身体に唇は無いが、そこは気分の問題である。
「忠誠……。私自身は、そんな大層な存在ではないのですけどね。しかし、見捨てる……ときましたか」
ヘロヘロは粘体の一部を触手状に持ち上げ、左頬を掻くような仕草をする。
結局のところ、自分達は今どうなっているのだろうか。
ユグドラシル2に巻き込まれた……にしては現実感が過ぎる状況である。日本に古来から伝わる創作ジャンル、異世界転移の状態にはまったのか。感覚的には後者だと思うが、確証は無い。セバス達が戻ってきて報告を聞けば、少しは状況把握ができるのかもしれないが……。
(もし、ここが異世界なのだとしたら。いいえ、脱出不可能なゲーム内世界でも良いですね。正直言って願ったり叶ったりです)
現実は糞だとヘロヘロは思う。
プログラマー業は嫌いでなかったが、過酷過ぎる業務がヘロヘロの心身を蝕んでいたからだ。
現実で肉体がどうなっているかが気にかかるも、今の状態で生きていけるなら……戻る気なんてさらさら無い。
「……ナザリックを離れていたことは申し訳なく思います。けれど、安心していいですよ。私はもう、自分の意思では現実に戻るつもりはありません」
自分をここに引き込んだ何者かの都合か、あるいはもっと別の何か。それによって現実に戻される可能性はあったが、今言った言葉に嘘はなかった。
(これからは、色んな意味で忙しくなりそうですけどね)
現状の把握。ナザリック外部の確認。ギルドホーム維持のための資金問題。いや、資金が尽きたら、やはりギルドホーム……ナザリック地下大墳墓は消滅するのだろうか。
そして、なによりも仲間達だ。
今のところ、モモンガには言いそびれているが、ユグドラシル終了間際、確かに自分は弐式炎雷や他の者達と一緒に居た。転移門が使用できず、何故か持っていたギルドの指輪を手に騒いでいたら……ヘロヘロのみが玉座の間に飛ばされたのである。しかも削除したはずのアバター、古き漆黒の粘体の姿で……。
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