第6話 きっと、大丈夫よ……
夜。
とある森で一人の男が目を覚ましていた。
最初の姿勢は大の字と言っていい。ムクリと躰を起こしたところ、周囲は立木で囲まれていて、藪なども見えていた。
(夜……だよな? 俺……こんな夜目が利いたっけ?)
その後はボウッと数秒間を過ごしたが、急速に意識が覚醒し、男の表情が混乱で歪んだ。
「待て待て待て! ここ、何処だよ!?」
ダッと立ち上がる。
真っ暗闇の森の中。しかも開けた場所というわけでもなく、ちょっとした藪の隙間だ。
今が夏なのかは知らないが、落ちた枯れ葉がほぼ無く、木々の枝には葉が生い茂っている。幸いなことに虫刺されなどは無いようだ。以前、自然大好きな友人から聞かされたところでは、こういった森林地帯の地面や藪にはダニが居て、噛まれると色々マズいらしい。
それが無かったので一安心だが、月明かりが無きに等しい状況で、周辺の風景を把握……視認できるというのが、男としては異常に思えていた。
何より異常なのは、中流よりも下の生まれな自分が、このような自然の森に足を踏み入れていること。
「てか、こんなのを疑似森で用意できるとか、大企業の会長様とかじゃないの? 夢……」
呟きつつ頬をつねったところ、確かな痛みを感じる。
「じゃないのか。じゃあ、アレだ。ここはユグドラシルだ。ゲームの中だ。きっとそうに違いない」
引きつったような薄ら笑いを浮かべるも、ここがユグドラシルの中であれば……と、そう思った瞬間。自身の直前までの行動が、脳内で爆発するように復帰した。
「うぉぉぉい! みんな何処だよ! ここマジで何処!? って、まだユグドラシル続いてんの!? ログアウトもコンソールもGMコールも、やっぱ駄目でっ! ぅん?」
大騒ぎしていた男の耳に、ガサリと木の葉ずれの音が聞こえる。
右の方向、距離にして二十メートルと言ったところか。
(数は……十ぐらい、いや十二か。足音が軽いから、大型のモンスターとかじゃないな……ぷっ、モンスターだってよ)
歩いたことのない自然……森の中に立ち、ここがゲームの中か現実かも判別が着かない。そんな中で遠くに物音を聞き、それを足音だと判断して、モンスターだとかどうとか。
ゲームと現実が入り交じってるような自分を笑わずにはいられない。
「まずは現状の確認だ」
身体のあちこちを探ってみた。
衣服は、最後に仲間達と会っていたときに着ていた物。特に防御効果など無い、アウトドア用の……ゲーム内着衣だ。
ここで気分がユグドラシル寄りになった男は、アイテムボックスを試してみる。と、これがコンソールなんかとは違い、普通に開くことができた。
「お、おーっ。やっぱユグドラシルなのか? いや、ユグドラシル2だったり? でも、みんな居ないしなぁ……」
ブツブツ言いつつボックス内を物色したところ、現役時代に愛用していた最強装備の内、防具類一式が揃っている。武器の方は良くて聖遺物級だった。
「心細いねぇ……」
先程、身体を探った……いや、頬をつねった時に気づいたのだが、この躰は人間種のものらしい。つまりは皆と居た際に使っていた人間種のアバターだ。ただし、感覚は異常なまでに生々しい。いや、現実の身体からすれば鋭すぎる。
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