第18話 TS少女とトレーニングジム
Side.緑谷出久
『雄英体育祭』まで残り2週間を切った週末。具体的に言うと、金曜日の放課後。
学校が終わって僕は、しかし家には帰らず……そこにやってきていた。
「……お、大っきい……」
雄英高校から電車で1本で行けて、駅に近く、最寄にコンビニはもちろん、様々な飲食店やサービス業の入った商業ビルなんかが揃っている、超のつく好立地。
そのど真ん中に立っている、30階建て、これまた超のつく高級タワーマンション。
教えられた住所に建っているここが……栄陽院さんの家だ。見上げている首が痛い。
特訓のため、そうあくまで特訓のため、『週末泊まりに来なよ』と誘われて……あんまり緊張しないで普段着で来ればいい、と言われてきたけど、無理だよ既に。
どこからどう見ても普通の一般市民でしかない恰好の僕に対して、このマンションから出入りしてる人、完全にもうなんか、裕福そうなオーラ全開の人たちばっかりだし……。
着替えその他の入ったボストンバッグを手に、Tシャツ姿で棒立ちしている僕の場違い感……。
け、けどここまできて引き返すわけにもいかない。
意を決して、玄関の所にある機械(名前知らない)を操作し、聞いていた部屋番を入力して……
「はいもしもしー、栄陽院ですけど?」
「あ、あの……え、栄陽院さん? み、緑谷だけど……」
「あー待ってたよ緑谷! よし、開けるから入ってー」
そう聞こえて、通話が切れると同時に……出入口の自動ドアが開いた。よ、よし……行こう。
長いエレベーターが目的の階に到着するのを待っている間、僕はとりあえず、ここに至った経緯を思いだしていた。
僕と栄陽院さんは、毎日ではないけど、互いに都合がついた+訓練室が空いていた日に、2人で『個性』を鍛えるための訓練をしている。というか、ほぼ一方的に僕が面倒を見てもらってるような状態なんだけどね……今のところは。
そんなある日の特訓の場で、さっき言った通り、僕は『お泊まり』の誘いを受けた。
もちろん何かいかがわしい意味があるわけもなく、あくまでこれは特訓のためだ。
どうやら栄陽院さんの家には、こういう時に役に立つトレーニング関係の器具が多くあり、また近くにいくつも、『個性』使用可のジムを始めとした訓練関係の施設があるらしい。
要するに、何もないところで人力だけを道具に訓練をするのにも限界が見え始めてるし、ましてや体育祭前の一番大事な時期だから、設備のいくらでも整ったところで効率のいい訓練を積むべきだ、という理屈らしい。その会場として白羽の矢が立ったのが、彼女の家だったと。
と、年頃の女の子が、同級生の男子を家に招くのはいくらなんでも……とは思ったんだけど、例によってあんまり深く考えてないんだろうなあ栄陽院さんの場合……! 僕だけが慌てたように言い返しても、それはそれで変な風に考えてるんじゃないかって悟られる可能性が……
それに、流石に彼女も外聞とかその辺については承知していたらしく……教室では話題に出さないように徹底していた上、カモフラージュや家のお母さんたちの説得に必要な小道具までくれた。
もらったのは、超高級な会員制トレーニングジムの優待チケット。それも、『めざせプロヒーロー! 個性訓練泊りがけコース』っていう、外泊を前提としたそれだ。
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