ハーメルン
徒然なる方舟のままに
雪やこんこ霰やこんこ (ドクター・アーミヤ・マッターホルン)

 .




 季節は冬、いつものように書類仕事が長引いたドクターとアーミヤ。時刻は既に二十時を過ぎているのだが、覚醒している意識を落ち着けたい。ホットミルクか何かが欲しいと、食堂へと歩を進めていた。


「おー寒い寒い」
「一気に冷え込みましたね」


 両腕で体を擦りながら白い息を吐くドクターに、アーミヤは苦笑しつつ答えた。二人が言うように、ここ数日で気温が一気に下がっていた。一週間の天気予報でもゼロ度を超える日はなく、今年初めての降雪さえありえるとのこと。
 二人共、冬用に厚着を着込んではいるが体の芯を冷やされている。身を寄せ少しでも暖かくなるように肩を並べながら通路を歩く。


「...」


 アーミヤは隣にいるドクターの顔をチラリと見る。視界一杯にドクターの顔が広っており、触れ合っている肩からは感じるはずのないドクターの体温が感じられるようで...。



「アーミヤ、顔が赤いけど大丈夫?」


 チラ見するだけのつもりだったが、熱に浮かされたようにドクターを見ていたアーミヤ。それに気づいたドクターに顔を覗き込まれて、ようやく自分がドクターを見つめていたことに気がつかされた。


「えっ!?大丈ふゅ、大丈夫ですよ...?」
「そうか?体調が悪くなったらすぐ言ってくれ」


 慌ててしまい噛んでしまうアーミヤ。ドクターは気づかないふりをしつつ、アーミヤを抱き寄せると自身のマフラーを巻いてあげた。
 自分の首に巻かれていくマフラーを、呆けたように見つめる。巻かれきると、アーミヤはマフラーに顔を埋めた。


「...はい!」


 赤くなった顔は温かくなったからなのか、それとも別の要因なのか。


 二人は引っ付きあいながら足取り軽く、歩みを再開する。そろそろ食堂の入り口が見えてくるところまで来たが、不思議なことに食堂から灯りが漏れていた。
 この時間に食堂を利用する報告を受けていないドクターとアーミヤは顔を見合わせ、互いに首を捻る。もっとも食堂に個人的利用の制限は一切ないのだが。
 疑問に思いつつも入り口へと近いづいていくが、入る手前でパッと灯りが消えた。そして食堂から一人の巨漢が出てきた。


「ドクターにアーミヤ社長?」
「「マッターホルン」さん」


 手に手提げ袋とキャンプ用の片手鍋にガスコンロを持って現れたのは、マッターホルンであった。
 ドクターとアーミヤは驚きつつも、厨房にも立つこともあるマッターホルンであるならばと納得した。


「お二人とも仕事終わりですか?」
「ああ、目が冴えてしまってね。ホットミルクでも飲もうかと」
「マッターホルンさんはどうされたのですか?」
「あー、実はですね...」


 マッターホルンは言い難そうにしながらも、手に持っていた袋の中身を二人に見せた。
 二人が中を覗くと、そこには白色の真空パックと透明な液体が入ったビンがいくつか入っている。ドクターがパックの一つ取り出すと、『甘酒』と書かれたラベルがデカデカと貼り付けられていた。


「甘酒」
「甘酒ですね」
「はい、甘酒です」



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