ハーメルン
不良隊長と人造少女達の成長戦記
第二話『七本脚の蜘蛛』


「よし、良くやった。総員警戒、姿勢を低くしろ。ここからは慎重に進むぞ」
「了解しました。各員警戒を厳に、低姿勢のまま進行します」

 先程までとは打って変わって表情を引き締めた青年が指示を飛ばし、部下を代表して副隊長だけがそれに応える。他の者は各々が銃器を手に取って、セーフティーを解除しつつコッキング操作で初弾を装填させていた。
 ただ一人無口な少女だけは、銃を握る代わりに肩に掛けられた背嚢のベルトをぎゅっと掴むだけだったが。彼女の現在の仕事は戦闘では無く運搬である故に。

「姫、頼む」

 青年隊長の短い言葉に、今度は特に反発することなく斥候少女はコクリと頷き進行を再開する。それに引き続いて、全員が上体を倒した中腰の姿勢のまま草木に潜んで進み行く。極力足音を立てない様に、しかし一定の速度は維持したまま。

「居たわ……。四本脚の偵察型二体。こちらにはまだ気が付いていない」

 そうしてしばらく突き進むと、茂みからぬっと突き出す異物が見えて来た。斥候の少女が発見したそれは、長方形の胴体に四本の足を付けただけの、えらくシンプルな多脚戦車である。大きさは青年の身長をやや上回る程度で、戦車と言ってもそれ程大きくは感じない。胴体よりも足の方が全体の体積を占めていた。偵察型とは銘打ってはいるが、胴体上部には長砲身の機関砲を二門備えているので通常の人間には充分驚異的である。

「どうするの? 今なら二体とも、仕留められるけれど」
「いや、気付かれていないならこのまま迂回してやり過ごす。わざわざ敵に侵入を知らせる事も無い」

 ひそひそと声を潜めての姫と隊長の会話。隊長の決断には隊の全員が即座に従い、敵との距離を保ったままで草木に身を潜めながらゆっくりゆっくりと迂回路を取る。
 本来ならば、このままやり過ごす事が出来る難易度の低い行軍だ。本来ならば。

「ぁ!? あはははははは!! 来るっ! 大きいのが、上から来るっ! ぷっ、あははははっ!!」

 唐突に赤髪の少女が立ち上がり、大声で笑いながら上空を指差した。敵を目前にしての唐突な愚行に、隊の全員どころか目前の敵も驚愕したかの様に呆然とする。ついでに互いに顔も見合わせた。機械の癖にシュールな動作である。

 すわ、このまま不期遭遇戦へ突入かと思われたその瞬間。だが、そんな刹那の間隙を弾き飛ばす様にして、上空から巨大な物が落下し地響きを立てた。ズゴォンと地響きを立てて土砂と草木の破片が乱れ散り、ビリビリと離れた所に居る青年隊長達の所にまで振動が伝わって来る。

 驚愕した青年達が視線を差し向ければ、先程の四本脚の一体が押し潰されて大破しているのが見えた。どうやら落下物の直撃を受けてしまったようだ。ひしゃげて潰れてしまった同型機を前にして、残りの四本脚もまた突然の襲撃者に向き直っている。

 ウオオオオオン! と、まるで唸り声の様な駆動音が大きく上がり、それに合わせてギギギギと金属同士が擦り合わされる不快な音が響く。それを発するのは先程墜落してきた長大な物体。巨大で禍々しい形状をした、鋼鉄で構成された一匹の蜘蛛だ。

 小山ほどある体格を無数の足で持ち上げて、ギョロギョロと瞳の様な複数の複合センサーを赤く灯らせる。それは紛れもなく、巨体を誇る多脚戦車だった。

 ただし、その戦車はまともな状態ではない。関節や装甲の繋ぎ目からはおびただしくオイルを零し、一番前の左足は根元を残して欠損して七本脚となっている。装甲は塗装がはげ落ちて赤錆が全身に浮かび上がり、その異彩にさらに拍車をかけていた。

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