ハーメルン
不良隊長と人造少女達の成長戦記
第二話『七本脚の蜘蛛』


 だからこそ、青年隊長はそのまま少女に手を伸ばした。

「本当によくやった! あの七本脚の奇襲に気が付いたのは、隊の中ではお前だけだった。やっぱりお前の耳は優秀だな。これからもその調子で頼むぞ」

 伸ばした手を頭にポンポンと軽く乗せて、口元をニイっと歪めて見せる。それを見て、笑顔を絶やさなかった少女はポカンとして表情を空にした。震えも収まって、自分が何をされたのか解らずにいる様だ。

「お前が今までどんな扱いを受けて来たかなんて俺は知らん。だが、俺はお前の力は有能だと思っている。だから遺憾無く、お前はお前の出来る仕事をこなして行け」

 それだけ一方的に言うと、青年隊長は少女の頭から手を放して歩み始めた。それに倣い、他の隊員達も歩みを進める。その動きに呆けていた少女は反応できずに遅れてしまう。慌てて青年隊長の左隣に並び立つも、追い付いた彼女に表情は戻らなかった。その胸中では、発現されないままの思考が渦を巻いている。

 絶対に罵倒されると少女は思っていた。今までもそうされてきたし、これからもきっとそうなると思っていたのに。仲間が死んでも、守るべき者が死んでも、胸中とは裏腹に現れる笑いと言う感情の発露の為に彼女は迫害されてきた。守りたかった人々に、気持ち悪いと疎まれ殴られてきたのだ。今度もきっとそうなると、彼女は諦観に近い心情で思っていた。

 だと言うのに、右隣に居る人間の青年は彼女を肯定する。

「あはっ、あははははっ……。ふふっ、あははははっ!」
「うおっ、どうした急に!? また奇襲か――って、何で泣きながら笑ってるんだお前は!?」

 索敵少女は天を仰いで笑いだした。繰り返し思考するのは、すぐ隣の新しい自分の指揮官の事だ。
 守りたい人達に疎まれる耳なんて大嫌いだったのに、この人は優秀だなんて言って褒めて来る。守りたい人達を守れなかった耳なんて千切って捨てたかったのに、この人はその調子で頼むなんていうのだ。
 欠陥品の筈の自分に期待を掛けてくれるだなんて、彼女が受けた信じられない奇跡に胸の思いが涙になって溢れ出た。

「たーいちょー、なーに泣かせてるんですかー。あーあ、いっけないんだー」
「ちょっ、おまっ! 俺なんにもしてないぞ、本当に! 人聞きの悪い事言ってんじゃねーよ!!」

 笑いと言う形でしか感情を発露出来ない彼女でも、生理反応である落涙は当たり前の様に起きる。悲しければ泣きながら笑うし、嬉しくても涙が出るのは当然なのだ。

「ちょっとアンタたち煩いわよ! あの赤いのがまた帰ってきたらどうするのよ!?」
「……ん。……ん」

 そう、今彼女は嬉しさで泣いている。自身の尊厳を取り戻せるかもしれない、その喜びに打ち震えて涙しているのだ。笑いたくて笑うと言う経験は、彼女にとって初めての経験だった。

「あははっ! 任せて隊長さん! 頑張る、頑張るから! あはははははっ!」
「お、おう。って、そうじゃなくて、何で泣いてんだよお前は!? 何処か痛いのか? 怪我とかしてんのか!?」
「だから黙れって言ってんのよ! このとうへんぼく共!」
「潜入任務だって言うのに、段々とにぎやかになって来ました。たいちょーと一緒だと、やっぱり退屈だけはしませんね」
「……ん」

 もう一度、今度こそは守り抜きたい。そう思って心からの笑顔を浮かべた彼女は、手の甲で力強く涙を拭うのだった。

[9]前 [1]後書き 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:5/5

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析