ハーメルン
ヘイ!タクシー!
契約01

「はいこれ、スイフトの車検証と自賠と納税証明書」
「ん、サンキュー」

あれから約半月、4月も終盤に差し掛かり今日までは特に何もなく日常が過ぎてゆき新年度の片鱗感じながら仕事に励んでいた

「・・・」ソワソワ

街は初々しい学生服やスーツに少し慣れた人たちが溢れ、新しい仲間や上司との会話に花を咲かせる様子をよく見るようになった

「なんか言ってた?」
「あー・・・下廻り見たら連絡してほしいって」

この業界も大分客足が落ち着き、どちらかといえば暇な月が続く

「わかった。オーダーには書いておくから」
「だから追加出す時に・・・って姉さん大丈夫?」

だが今日この日だけ、ウチは違っていた

「だあぁぁぁぁ!二人ともおかしいって!」
「「何が?」」

朝出社してからというもの、工場と事務所を落ち着きなく何回も往復し、鏡の前に立って身だしなみを整えたり、ソファに座って携帯を触ったりとソワソワしていた姉さんが頭を両手で抱えながら勢いよく立ち上がった

「だってそうでしょ!今日KBYDが打ち合わせで会社に来るっていうのにその落ち着き様!ありえない!ありえないわ!!」
「いや、まぁ来るといえば来ますけど・・・」

そう、今日はキャンペーンガールの件で346のアイドルグループ、KBYDが顔合わせも兼ねての打ち合わせということで会社に来ることになっている
最近では、姉さんが「あと2日・・・」「あと1日・・・!」と年末のカウントダウン並みにぶつぶつと呟き始めたので、ひな先輩が心底呆れていた

「だからって仕事が入ってこないわけではないし。ほら、早く戻らないとマズいんじゃないですか?」
「いや、仕事してる場合じゃ」

その瞬間バシッと姉さんの後ろからひな先輩が姉さんの頭目がけてバインダーを振り下ろした

「今は仕事する場合。来たら教えてあげるから」
「いや、でも・・・」

姉さんの目の前にオーダーを突きつけるひな先輩

「私たちがいるから大丈夫。ほら、試乗点検行ってきて」
「はぁい・・・」

そう言うと渋々オーダーを受け取り、姉さんは外へ車を取りに行く

「まぁ、姉さんの気持ちもわからんでもないけどな」
「そうですね・・・」

椅子に背中を預け、だらんと背もたれにのけ反りながらひな先輩が言う
姉さんだけではなく俺たちも、少なからず心が踊っているのがわかる
芸能人が来るというだけで落ち着かないのに相手はあの今をときめく超人気アイドルグループKBYDとくればなおさらだ
ひな先輩も時おり出入り口をチラチラみたり、かくいう俺もソワソワしてキーボードを打つ手がたまに止まってしまう

「本当にウチの宣伝なんかしていいのか?ましてやあのKBYDがわざわざ」
「やっぱりそんな凄いんですか?」
「んなお前、凄いなんてもんじゃないぞ。どのテレビ局にも引っ張りだこで、LIPPSやクローネと並ぶ人気グループだし。バラエティ番組でもよく見るしな」
「そんな人気グループがなんでここのキャンペーンガールなんか・・・」
「さぁ、裏があるとしか思えない」

実際この話も何故かポンポンとテンポ良く話が進み、社長が要求する条件も快く引き受け、今日の打ち合わせが実現する運びとなった

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