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ニコライが信じられない事を言った。
「どういう事だよ!ジル達を置いていくなんて!」
カルロスが食って掛かる勢いでニコライに掴みかかるのを、ミハイルが必死で抑えている。ニコライはそれに動じる素振りを見せず、ただ彼らを見下ろしていた。
「何回も言っただろう。あの女は危険だ。我々もリスクを背負う事になる」
「リスクなんてなぁ!今だって背負ってんだろうが!」
彼が犬のように吠えているのを、ニコライは呆れた様子で肩を竦める。
「ニコライ……何故ジルを置いていくなんて言う?メアリーはどうするつもりだ?」
ミハイルが彼を抑えながらニコライに問い掛けた。自分達は生存者の救助を任務としている。ジルが生存者である以上、彼女を助けないわけにはいかない。
ニコライは顎を撫でさすり、窓の外に視線を向ける。
「メアリーは助ける。だがジルは……少々厄介な物に目を付けられている可能性がある」
外は相変わらずゾンビが道を闊歩している。ここまでの道は背の低い資材でバリケードを張ったが、力尽くで突破されないとも限らない。
そしてその"厄介な物"は、バリケードすらいとも簡単に破壊してしまう。
ミハイルとカルロスはその言葉に動きを止めて疑問符を浮かべる。そしてその疑問を投げ掛けようとした時、そのバリケードを抜けてこちらに戻ってくるジルとメアリーの姿が3人の視界に映った。
「……とにかく、ジルは危険だ。お前達もじきに分かる」
口喧嘩などしていた事を悟られてはいけない。ミハイルはカルロスを解放し、彼もまた自分の頭をくしゃくしゃと乱しながら椅子にドカッと腰掛ける。
少しして電車の扉が開くと、カルロスはそちらに向かってひらりと手を振った。
「よう。友達は……一緒じゃないんだな」
窓から見ていた通り、帰ってきたのはジルとメアリーの2人だけ。迎えに行くと言っていた友達の姿はなく、どう言葉を掛けたら良いものかと3人は閉口した。
「……だが、無事で良かった」
その沈黙を破ったのはミハイルで、彼はメアリーに近付くと頭を撫でてやった。彼女はミハイルの体にトンと頭を預け、再び涙が溢れそうになるのを堪えている。
「確か、この先の時計塔の鐘を鳴らせば回収用のヘリが来てくれるのよね?」
ジルがニコライに歩み寄り確認を取る。回収される先はアンブレラの基地だろうが、そこから抜け出すための方法はこの街から脱出した後で考えても遅くはないはずだ。まずはこの地獄から抜け出す事。それが最優先事項である。
「そうだ。時計塔の鐘は作戦終了の合図になっている。すぐに脱出出来るはずだ」
ニコライは頷く。勿論、何もなければだが。
「よし、なら俺が運転する。さっき直したんだし、ちゃんと動くはずだ」
「私も行くわ。運転出来るか見ててあげる」
カルロスが立ち上がり先頭車両へ移動を始め、茶化しながら着いてくるジルに苦笑いを零して2人は扉を開けてそちらへ行ってしまった。
後方車両にはメアリーとミハイルとニコライの3人が残され、怪我をしているミハイルを座らせるとメアリーはその隣に腰を下ろした。
「友達の事は……残念だったな」
ミハイルは先程よりも元気ではないメアリーの様子を見て、やはりどう言葉を連ねればいいのか分からなかった。自分の中では昨日仲間だった者が今日屍に姿を変える事は日常茶飯事であり、それは現役で軍に属していた時も、アンブレラに雇われてからも同じ。だが、隣にいる少女は違う。こんなに早く友達を亡くしてしまうなんて想像もつかなったはずだ。それも、こんな絶望の中で。
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