10/1 - ③
下水道にはゾンビの姿が少ない。だが、その代わりに見た事もない生物が命を脅かしてきた。
「メアリー、足下気を付けて!」
ジルのその声に反応するように下を向くと、大きなミミズのような生物が脚に引っ付いてくる。
「ッ……!!」
途端にチクリとした痛みが襲い、血を抜かれるような感覚があった。咄嗟に振り払おうとするがそれの持つ牙がしっかり食い込んでいるようで、ちょっとやそっとでは離れてくれない。
「じっとしてな!」
そこに後方からカルロスの声が響き従うように動きを止めると、ひとつの銃声の後にミミズはメアリーの脚から離れた。
「大丈夫か!?」
「な、なんとか……それにしても、本当に人間以外の生き物もウィルスに罹るんだね」
先程のミミズ以外にも巨大化したクモも見掛けた。ニコライのレポートにもそのようにまとめられていたページがあったが、以前に見た犬以外に虫もウィルスに侵されているのを見ると、アンブレラが研究していた物は脅威的なウィルスなのだと改めて実感させられる。
「このままじゃキリがないわ!走るわよ!」
「了解!」
ミミズが汚水の中から次々沸いてくるのを見るとジルが駆け出し、カルロスは後ろからメアリーを抱えて彼女を追うように走り始める。ボヤッとした灯りが前方に見え、もう少しでそこにある下水道管理会社に入れる扉まで行ける。そんな時、大きな地響きが下水道を揺らし、立ち止まる事を余儀なくされた。
「!!そんな…!!」
下水道の天井を破り姿を現したのは先程までの物とは大きさが桁違いな巨大ミミズで、汚水の中に着地すると水かさが増して飛沫が道や壁に溢れる。ジル達3人を丸呑みする事も容易な大きさのそれと対峙して息を呑んだが、ジルは果敢にもグレネードランチャーを巨大ミミズに向けた。
「倒すしかないわ!カルロスはメアリーと一緒に扉へ!」
「ジル、お前1人で相手しようってか!?無茶だ!」
カルロスは駆け寄って加勢しようとするが、片手では満足に射撃する事は叶わないだろう。
彼はまた迷った。ジルをとるか、メアリーをとるか。どちらも己にとっては大切な存在だ。
メアリーを1人にさせ、またニコライに捕まってしまったら。だがジル1人では巨大ミミズに勝てる確証がない。どうしようもない状況に、思わず奥歯をギリッと噛んだ。
(ああ、ミハイル。あんたもこんな気持ちだったのか?)
あの時、己は何も知らなかった。あの電車の中、ネメシスが襲ってきた時、ニコライはメアリーを連れて退避してきたのだと素直にそう思っていた。だが実際は、己の身とその身に価値のある少女の安全を確保するためだったのだろう。
ミハイルはジルに"メアリーを頼む"と言い残して自ら散った。
そうだ、ニコライではなくジルにそう言っていた。
彼はニコライの正体を知っていた。だからこそ、彼ではなくジルに託したのだ。
「カルロス!?何するの!?」
気付けばグレネードランチャーを構えるジルの手を無理矢理に引っ張って駆け出していた。そして扉まで辿り着くとその手からグレネードランチャーを奪い、代わりにメアリーの身柄を彼女に託す。
「ちょっとは俺にもカッコ付けさせろよ」
唖然としているジルとメアリーを見ていつもの調子で軽口を叩くと、カルロスは彼女らの背後にある扉を開けてその中に2人を押し込んだ。
「カルロス!!」
2人が叫び声のようにその名を呼んだ時には、内側のドアノブを破壊されていた。
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