ハーメルン
地図から消えた街
6/27 - ②



 ジル達の昼休憩が終わるまでバーガーショップに居座り、解散したところでリリィとメアリーは再び街へ繰り出した。夕方まで遊び回り、リリィは今日は父親が早く帰ってくる日だと言って彼女の家の前で解散となった。
「またね、メアリー」
「うん、またね〜」
 自転車に跨り、メアリーは彼女の家を後にして別の場所へ向かった。

 自転車で十数分。
 メアリーは自転車を降り、スタンドを立てて高い門を見上げた。
 ラクーン市警。通称R.P.D.——元々は美術館だったらしい大きな建物を前に、その門を開けて中に入る。すると大きな女神像が内部中心に聳え立っていて、思わず見上げながら息を呑んでいた。さすがは元美術館なだけはある。
 メアリーは先程からこちらを凝視している受付の職員の前までやって来ると、子供には少し高いカウンターに手を付いた。
「すみません。S.T.A.R.S.の隊長に会わせてくれませんか」
「S.T.A.R.S.の?どういったご用件なのかな、お嬢ちゃん」
 まずそこで行き詰まった。夕方という微妙な時間帯。警察としては長期休暇で浮かれている子供を早く家に帰したいところだ。
 加えて、最近はアークレイ山付近で怪しい事件も多く街に降りてこないとも限らない。
「そ、それは……」
「特に用事がないなら家に帰りなさい。もうすぐ夕飯の時間だろ?」
 それは至極真っ当な指摘である。職員も困ったように眉を下げていた。
 だが、メアリーには家に帰っても夕飯を用意して待ってくれる親なんていない。
 彼女にとってはそちらの言葉の方が重かったようで、顔を俯かせ唇を噛む。
「……家は?電話を貸してやるから、迎えに来てもらいなさい」
 職員がカウンターの中へメアリーを通そうとする。そうしていると、ちょうど階段を降りてくる人影があった。
「あれ、メアリー?こんな所で何してるんだ?」
「クリス!」
 昼間に居合わせた見知った顔を見て、メアリーはパッと表情を明るくさせる。それとは対照的に職員は溜息を吐いた。
「あー……今日のS.T.A.R.S.部署の宿直はあんたか。この子知り合い?」
「ああ、昼間知り合ったばかりだけどな」
 ハハハ、と暢気に笑うクリスを見てもう一度溜息を吐くと職員はメアリーを彼の方へ押し出した。
「隊長さんに用があるんだと。頼める?」
「いいけど……ウェスカーはもう帰ったぞ?」
 その言葉に、メアリーは頭を打ち付けられたようなガーンとしたショックを受けてしまった。
「そ、そんなぁ……」
 来るのが遅かった。しゅんと俯くメアリーの反応に、クリスも職員もオロオロと戸惑う。恐らく2人とも子供の扱いに慣れていないのだろう。
 尤も、警察署に用がある子供なんてそうそういない。
「ま、まぁ……迷子っぽいし、保護って名目でそっちで管理してくんない?知り合いの方が安心出来るでしょ」
「あ、ああ、そうだな。こっちのオフィスに通すよ」
 おいで、とクリスが手招きする。
 迷子ではなく自分の意思で、ウェスカーに聞きたい事があってここに来たのだが、これも何かの縁だと思って、しかし大部分を占めていた好奇心を満たすためにメアリーはS.T.A.R.S.オフィスの世話になる事にした。

「どうぞ。紅茶飲める?」
「あ、ありがとうございます」
 クリスはメアリーをS.T.A.R.S.のオフィスに通すと、自分の机の隣の椅子に座るよう促し、落ち着かせるように温かい飲み物を振る舞った。

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