7/25
あれから1ヶ月近くが経った。
7月も後半でいよいよ夏の暑さが襲来している。昼夜問わず暑く、ひとたび外に出れば汗が滴り落ちる。
メアリーは関門突破を目指し、長期休暇を利用して猛勉強をしていた。全てはウェスカーとの約束を果たすために。
『パパ、私S.T.A.R.S.になるから!』
あの日帰ってから1番に父に電話を入れた。相変わらず留守電だったが、あの日だけはそうメッセージを残していた。
あれからも父から連絡はないままだが、成績が向上したのを見れば専門の学校への進路も考えてくれるかもしれない。
リリィに勉強に付き合ってもらったり、図書館へ足を運んだり、メアリーの長期休暇は充実していた。
「うーん……」
ラジオを流しながら、メアリーはこの日の夜も自室の机に向かって勉強に励んでいた。
ウェスカーの言った通りアークレイ山地は全面的に封鎖され、一般市民は近付く事すら出来なくなっている。夜も警備が敷かれ、S.T.A.R.S.も調査に駆り出されているという。
ジルやクリスに専門知識を教わりたかったが、彼らにそんな時間はない。時々行きつけのバーガーショップで姿を見掛けたが、2人とも疲れたような、難しい顔をしているのが見えて声を掛けられなかった。
「みんな頑張ってるんだ……私も頑張らなきゃ」
いつかは自分もみんなの役に立てるようになりたい。
パチッと頬を叩いて目の前のノートに集中する。中1の後半で習うような数式が並んでいた。
その時だった。
「……!!」
バン!と外で何かが弾けたような音が聞こえた。
気になってカーテンを開けると、夜明け前の薄暗い空に煙が立ち上っているのが見える。
その煙を辿っていくと、アークレイ山の中腹辺りから火の手が上がるようにチカチカした光があるのが見えた。それはものの数十秒の間に次から次へと拡散していく。
ただの山火事じゃない。
メアリーは直感するとすぐに家を出た。
こんな早朝ではバスも走っていない。メアリーは自転車で人通りの少ない通りを全速力で駆け抜けていた。
ここから山までは自転車で行けばかなりの時間が掛かるが、気にしている場合ではない。体力の限界まで走ると決めた。
そうして時間を掛けて山の近くまでようやく辿り着くと、既に警察や消防隊、マスコミが数多く押し寄せていた。
「何してるんだキミ。危ないから子供は帰りなさい」
様子を見ようと自転車に跨りながら背伸びをしていると保安官の制服を纏う男に追い立てられてしまった。
このままでは近付く事すら出来ない。
メアリーは迂回するように人目を避けられる場所まで再び自転車を走らせた。
「この辺りでいいかな……」
ようやく自転車を降りてスタンドを立てるとキープアウトと書かれたテープの下を潜って山へ入る。
絶対に危ないのに。それなのに、足を止められなかった。
(山はもう封鎖されてるのに火事になるなんて、やっぱりこの山には何かあるんだ!)
凶暴化したドーベルマン。
山から降りてきたであろうと報じられていた一家惨殺事件を起こした暴徒。
今回の山火事。
そして何より、騒ぎが大きくなる前に見回りという名目で山に立ち入っていたアルバート・ウェスカー。
整合性があるようでないような、奇妙な出来事ばかり。
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