08. Lies and Truth
「ふぅ……今日も暑いな……」
作業の手を休め、張った背中を解すように反らし、高く抜けた青い空を見上げる。顔を上げた拍子に額に溜まっていた汗が頬を伝ってきたので、首に掛けたボロ布で拭き取った。
タオルでは足りず拳で乱暴に顔を撫で遠くに視線を向けると、木々の間から見えるのはいつもと変わらない、日の光をきらきらと反射し輝く波穏やかな海。そこに船の姿は……ない。
「安曇さん、そろそろ休憩にしませんか?」
穏やかな声に振り返ると、涼月が両手で編籠を持ちこちらに向かってくるのが見えた。もうそんな時間か……今日の昼食はなんだろうか、と考えながら、俺は持ち上げた手製の鍬を地面に突き刺し、出迎えるように涼月の方へと歩き出す。
今の俺は、涼月と共にこの泊地の復旧と食糧増産に取り組んでいる。
役割は開墾、耕作面積の拡大だ。重機なし、手製の道具だけ、そして人力……この条件は掛け値なしの重労働。それでも根気強く毎日同じ作業を繰り返している。
俺と涼月が向かった先は、今いる場所から林を抜けた所にある、海を一望できる少し開けた場所。何の偶然かここだけぽっかりと、何もない平地がある。広さは公園の砂場二つ分程度だろうか、それでも足を延ばして座れる場所には違ない。
涼月が編籠からいそいそとレジャーシート代わりの焦げたテント地を取り出し、両端を手で持ってばさっと広げ地面に敷く。四つん這いになってあちこち皺の部分を丁寧に延ばしていた涼月だが、仕上がりに満足したのだろう、両手で小さくガッツポーズを作る。正座から少し脚を崩して横座りになると、編籠から水筒や弁当箱を取り出し、俺に柔らかく微笑みかける。
「……どうしました? 座ってください、お昼にしましょう?」
「ああ、そうだね。今いくよ」
――ったく、レンのせいで変な意識しちまうじゃないか……。
俺は涼月を直視できず目を逸らしたり、逸らしきれなかったりだった。白いセーラー服姿の涼月だが、白いインナースーツやコルセット、普段は肩に羽織っているジャケットはない。今朝洗ったらしい。なので普段隠れている生腕と生脚が丸出しだ。
そんな彼女がシートの上を四つん這いで動いていて、時には向きを変えて手を伸ばしたりしていたのだ。半袖セーラーの襟元や袖口、戦闘用制服かよこれ? と言うほど短いスカート……色々見えてしまうのに、本人はまるで無頓着というか……。
靴を脱いでシートに上がり、俺は気恥ずかしさから涼月から少し距離を空けて胡坐で座る。微妙な距離に小首を傾げた涼月は、ずりずりと膝を動かして距離を詰め、はい、とおしぼりを差し出してきた。
受け取るのはごつごつになった俺の手。鍬なんか握ったことのない俺の手だが、これだけの間毎日やってれば手の平は厚く固くなる。じぃっと俺の手を見ていた涼月が、どこか嬉しそうにクスっと笑いかけてきた。
「もう……一か月になるんですね……。こんな日が来るなんて、想像もしてません、でした」
――迎えのフネが来るまで居ていただくしか方法がないと……思います。
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