逆鱗
那田蜘蛛山。かつては峰が美しく自然豊かな土地として有名であったが、いつしか鬼達の住処へと変わり果て、文字通り網にかかった獲物を捕らえる蜘蛛の巣と化してしまったのだ。幾度も鬼殺隊士を派遣するも生きて戻った者はこれまで一人もいない。繰り返される攻防の中で危機感を感じた本部は遂に最高戦力「柱」を二名投入する事を決定した。
今宵も隊士達が死力を尽くして戦っている。那谷蜘蛛山に住まう鬼達との永きに亘る激戦は、今まさに終結を迎えようとしていた—————。
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「ぐ……禰、豆子…………」
限界に限界を重ねた身体を無理矢理動かして、炭治郎は血を流して倒れている禰豆子の元へ近付いていく。浅草の騒動から数週間が経った。日々任務を遂行する過程で共に行動する仲間も増え、一層鬼の討伐に精進せんと意気込んだ矢先だったのだ。
複数の鬼の同時討伐。しかも前回の鼓鬼の時とは違い、各個体が明確な意思を持って協力し合っている。その内の集団を統率する鬼が"十二鬼月"と判明したのも既に数刻前だ。はぐれた仲間は現在も山の何処かで戦っており、安否も気にならないと言えば嘘になる。しかし最も優先すべきは、自身の想いに呼応し尽力してくれた妹なのだ。
唯一人残った大切な家族の元まであと僅かの距離に到達した、その時—————
「—————僕に勝ったと思ってるの?」
「!!!」
そんな……何故生きている!?
振り向けば胴体から切り離された自らの頸を血鬼術の糸で吊り下げた鬼が、激しい怒りの表情を露わにして背後から詰め寄ってくる。頸を斬られた鬼は例外無く灰となって消滅する筈なのに…。想定外の事態に呼吸が更に乱れていく。鬼は再び繋がった頸をコキリ、と鳴らし口を大きく開いた。
「分からない?刃が届く寸前に自分の糸で頸を切ったんだよ。一瞬でも勝利を掴んだ悦びを味わえて良かったね」
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