死から逃れる者はいない
狂気の波長は、当然ながら波長の一種だ。
電圧の測定によって、その波長は数値化できる。
僕も自身の脳波を測定することで、その結果は脳波計へ出力された。
脳波は安定しない。
脳波計で線として見れば、先の読めない動きだ。
この波形にリアルタイムでタイミングを合わせるのは無謀に過ぎる。
そもそも僕は、まず自身の脳波を操作しなければ成らなかった。
通常、デルタ波は覚醒時に検出されない。
でも僕の年齢ならば、まだ覚醒時に検出される事もある。
今の内に感覚を掴まなければ、やがて睡眠中にしか現れなくなる。
そうなれば薬物によって、脳波を操作しなければ成らない。
デルタ波は、いつでも現れる訳ではない。
まずデルタ波を、いつでも出せるようにする。
正確な脳波を知るため穴を開け、電極を埋め込む試みもあった。
でも体に浸透した彼女の個性は異物を認めず、穴を開ける事も叶わなかった。
2年目。
小学校の通信教育を受けるために勉強も行う。
雄英高校へ入学するのならば、普通の学校では難しい。
僕の場合、狂気の波長を考えれば通信教育しか選択できない。
雄英高校へ入学する前提の通信教育なんて、人数は限られる。
デルタ波を訓練する時間を削っても、小学校の受験勉強は行う必要があった。
しかしヒーローになる選択を捨てれば、デルタ波の訓練に集中できる。
僕がデルタ波の訓練を受けているのは、狂気の波長を抑えるためだ。
彼女に会うという理由もあるけれど、それは僕の個人的な理由に過ぎない。
でもヒーローになる事と、狂気の波長を抑える事は、別件だ。
ヒーローを諦めて、デルタ波の制御に専念するべきだ。
ヒーローを目指せば勉強する時間も、肉体を鍛える時間も必要になってしまう。
そう思ってドクターに相談した。
「ならば研究者を目指すといいじゃろう。ワシの力を借りられなくなっても、君の力で目的を達成するために資格と財力は必要じゃ。あるいはヒーローとなって、ワシに恩を返してくれると嬉しいぞ、ホホ!」
ドクターは僕を治療してくれている。
そのために大きな負担を負っている。
狂気の波長を制御して終わりではない。
ヒーローは目的ではなく手段だ。
目的は波長の制御、そのための手段が勉強だ。
ヒーローになる事も手段の1つに過ぎない。
3年目。
小学校へ合格し、通信教育が始まった。
勉強に時間を取られ、デルタ波を訓練する時間を削られる。
4年目。
デルタ波を意識して出せるようになったものの、気絶する事が多くなった。
何の前触れもなく意識が絶たれ、いつの間にか気絶している状態だ。
これはデルタ波を出せるようになったものの、制御できていないからだ。
食事している途中で皿に顔を突っ込み、物を落として片付け、階段から落ちる。
彼女の個性に体を守られていなかったら、死んでも不思議ではなかった。
こうした意識障害によって、全体の作業速度が低下している。
5年目。
デルタ波による意識障害の回数は減りつつある。
デルタ波の制御は安定し、テスト波形と同調する訓練を始めた。
しかしデルタ波の周波数を下げると、意識障害によって先へ進めない。
何度も繰り返し、少しずつ慣れて行くしかないのか。
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