君にとっての善人は、私にとっての悪人
ドクターの非道な研究を、僕は知っている
とは言え、それは彼の記録であり、まだ証拠はない。
ドクターの仕事が終わるまで、僕は怪しまれないように検査を受けた。
「おお、目が覚めたか、どうじゃ? 体に違和感はないか?」
ドクターの笑顔が、今は恐ろしい。
死体を加工していた事を、僕は知っている。
でも、それは僕の思い込みに過ぎないのかも知れない。
恐怖という感情を外して見れば、いつものドクターと笑顔は変わらないのだ。
「1年前、君の脳波は沈黙した。瞳孔観察・顔面刺激・気管刺激・眼球刺激・呼吸テスト・血圧と体温の測定を行い、6時間後に再検査した結果、脳死と判定した。しかし、君の個性は正常に肉体を維持していた事から例外として、生命維持が行われておった」
そもそも僕の血圧は一定で、短時間の測定に差は出ない。
僕の心臓は停止し、彼によって補われているからだ。
血液は送り出されるのではなく、自発的に移動している。
「血液として機能していた君の個性は、脳が沈黙している間に神経を侵食した。それは当然、脳も例外ではない。個性は神経の機能を代行し、一見すると正常に情報を伝達しておる。しかし全身の電圧を測定した結果、電圧の変化は脳しか起こっておらん。つまり脳から発せられた信号は、末端に届かないままーー見ての通り、それでも正常に肉体を動かしておる」
彼に頼んで、僕は体を動かしてもらっている。
と言っても彼の意識は、彼の肉体と共に失われた。
正確に言うと脳波の共鳴によって、彼の脳波に干渉し、個性を使っている。
だから僕の体を動かしているのは僕ではなく、彼の個性なのだ。
「そもそも君の脳は活動を停止しているのじゃろう。君の頭部から検出されている脳波は、実際に脳から検出されているのではない。狂気の波長と同じなのじゃよ。彼女の波長と共鳴した君の波長は、その際に同じ物になってしまったのじゃ。その仮説を裏付ける証拠として君の波長の出力は、心臓の位置から放たれる彼女と同じ出力になっておる。同調した今は、君と彼女の波長を見分ける事はできん」
さっき言われた通り、僕は1年も眠っていたらしい。
雄英高校の受験まで、あと半年もない。
おまけに僕の勉強は1年も遅れている
そういう訳で、さっそく勉強を始めた。
ひたすら僕は3月ほど、大人しく勉強した。
そして秘密の通路へ忍び込み、その先の地下施設を視認する。
ドクターの忙しい昼間に決行したけれど、代わりに黒い怪人が待ち構えていた。
彼の記憶で見た、あれもドクターの造った死体だ。
たしか正式名称は、改人脳無。
「同胞カ。ダガ、誰モ通スナ ト言ワレテイル」
問答無用で殴りかかってくる。
あまりにも速く、反応はできなかった。
壁に押さえつけられ、体を潰されそうだ。
しかし僕の体は、彼の黒血で補強されている。
僕が思っている以上に、黒血の強度は高かったらしい。
そうしている間にドクターが、やってくる。
「ようやく彼女は彼だった、という事に気付いたのかな。うっかり呼び方を間違える心配はなくなった訳じゃ」
僕は彼と共鳴した。
その際、彼の波長によって、脳を乗っ取られている。
逆に今の状態は彼の波長を、僕が乗っ取っている。
そうして何らかの方法で情報が漏れる可能性をドクターは考えていたはずだ。
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