ハーメルン
緑谷出久と黒血
鬼神

病院へ着いた時、戦いは終わっていた。
病院は封鎖され、ドクターは警察に引き渡されていた。
僕は退学の書類を提出し、学校から荷物を引き払う。

僕はドクターの弁護人に会ってもらった。
でも、僕が証人として法廷に立っても、逆に不利となる。
証言しても検察側に追求されるデメリットの方が大きかった。
ドクターにとって都合の悪いことを僕は知りすぎていた。

「彼は医療に貢献してきました! その全てをヴィランという理由で無かった事にして良いのでしょうか! 僕は個性の影響で、学校にも通えない状態でした! そんな僕に通信教育の環境を提供し、個性の治療も行って、10年の歳月をかけて人前へ出られるようにしてくれたのは、巨悪として取り上げられているドクターです!」

僕は町中に立って、声を上げる。
当然の事ながら、耳を貸してくれる人はいなかった。
早々に共同住宅は契約の解除を迫られ、荷物を背負って外で生活する。
と言っても黒血のおかげで、体は丈夫だった。

疲れないし、眠らなくていい。
物を食べる必要もないと気づいた。
これを機会に、体の大部分を黒血で置き換える。
外にいると服も汚れるので、黒血で構成した。
そうすると血は黒いので、全身が黒く染まってしまう。
まるで脳無のようだ。

ドクターの裁判は異常なほど早く進んだ。
オールマイトを殺した元凶を、世間は望んでいた。
多発するヴィランの犯罪に対する不満を、解消する相手を求めていた。

「ーーよって被告人を死刑に処する」

裁判官は安心する。

「これで翌日の朝刊で批判される事はないだろう」

裁判員は同意する。

「死刑になって当然だった」

傍聴人は称賛する。

「正義の勝利だ!」

誰れも彼れも、ドクターを死刑にしたかったのだ。
ベルトコンベアへ流すように、最初から結末は決まっていた。
この裁判は公正と言えるのか。

恐怖、不安、憎悪、不満。
人は都合のいい的に、痛みを押し付けている。
自分にとって都合のいい真実を見て、無責任に他者を批判する。
それで良いのだろうか。

僕は、どうしたいのか。
この裁判に納得できるのか。
このままドクターの死刑を見逃していいのか。
そう思ったから僕は、

「力を貸してほしいーー魔剣ラグナロク」

彼に頼んだ。
そうして黒剣を作り出し、裁判所の天井を破壊する。
法廷へ入れなかった僕は、裁判所に忍び込んでいたのだ。

「おお、ラグちゃん! 指示せずとも助けに来てくれたんじゃな!」

しかし急にドクターの体が吹っ飛び、ヒーローの下へ収まった。

「私の個性が反応しない。あの少年ーー全裸だ!」

ヒーローから生えた木の根が、一気に視界を埋め尽くす。
その瞬間、それとは別に凄まじい衝撃を受けだ。

「先制必縛 ウルシ鎖牢!」
「忍法 千枚通し!」

服を操る個性、木の根を生やす個性、そしてーー何だろう。
昔はヒーローに詳しかったけど、今は分からない。
今の僕にとってヒーローは目的ではなく、手段に過ぎなかった。

「ずいぶんと外見は変わっているが、緑谷出久だね。個性は黒血。聞いていた通り、なるほど硬いーーしかし!」

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