19話 煽り運転
「ナイフの次は鎧かー……。確かにそろそろ更新したかったけど、安く作ってくれちゃって問題ないのかな」
ガヤガヤと賑やかな広場に、少年の小さな疑問と不安は吸い込まれる。この日のベルは8階層で魔石を集め、予定通りに地上へと戻ってきていた。
戻ってきた際にバベルの塔でナイフを受け取っていたのだが、その際に鎧の更新を提案されることとなる。本当の初期装備であり胸部のみをプロテクトしていた鎧姿は、確かに10階層へと赴くにしては貧相極まりないと言って良いだろう。
もっとも、敵の攻撃の大半をナイフで受け流す彼にとっては現状のアーマーだけでも差し支えない程である。とはいえ備えがあれば憂いがないのは事実であり、そろそろ己の師匠にも相談しようかと思っていた頃合いに都合よく話が舞い込んでおり、もし過剰装備と言われたならば何かしらのアーマーを買えばいいやと考えている。
鎧作成のついでというわけではないのだが、現在の初期装備なプロテクターは純粋な金属製ということもあって、一度融かしてから別の部位に再成型するというのが鍛冶師の説明である。この点における制作費に関しては完全にサービスとなっており、何かと貧乏性が抜けない少年は喜んで提案を受け入れていた。
バベルの塔への用事も終わり、残りはギルドでの換金作業。魔石を中心として少量のドロップアイテムを獲得しており、こちらもそこそこの金額と交換することが可能である。査定についてはギルド側に一任することになるが、そこは換金者が持つ交渉術の見せ所だ。
もっとも少年はそんな技術は持っておらず、言われるがままの換金である。担当側としてもぼったくるようなことはしていないため特に問題は無いのだが、どうやら今回は別の話題があるようだ。
「ああ、君がベル・クラネル君か。アドバイザーのエイナさんから伝言を預かっているよ、なんでも用事があるみたいで顔を出して欲しいそうだ」
「エイナさんが?あ、はい、わかりました。今居らっしゃいますかね?」
「自分もついさっき聞いたところだから、多分いると思うよ。いつもの受付の方だ、宜しくね」
小袋に入ったヴァリスを仕舞うと、ベルは受付所の方へと歩いていく。波にさらわれる砂のように冒険者でごった返す夕暮れと違ってまだ人は少なく、それでも多種多様な冒険者の装備を見て羨んだり想いに耽る少年であった。
そんなことを考えながらも、目的地にはすぐに到着する。誰かと話をしているのであろうエイナの相手が他の冒険者に隠れていることはさておき、訪ねてきたことを知らせるために少年は前へと足を運び――――
「……」
「あっ……」
エイナが話していた相手は、いつかの5階層で助けられた金髪の少女。エイナの視線に釣られるようにして振り向いた彼女と、見開いていた少年の視線が合致した。
「ちょっ、ベル君!?」
そして、エイナの制止を振り切って逃走を開始する。その姿が、いつかのヘファイストス・ファミリアで青年が見せたダッシュと瓜二つであったのは蛇足である。
一方、アイズに関してはリヴェリアの助言通りにエイナを訪ねていた次第であり、まさに目の前で逃げた少年の事について聞いていた段階だ。
逃走の対応をされた5階層での焼き直しだとアイズは思い、なぜ少年が逃げてしまうのかと考える。あの一件で少年が自分を怖がってしまっているというのが第一の考えだが、他に何かないかと考えを巡らせる。
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