6話 目指す形
「それじゃ、ボクは可愛い可愛い二人のために頑張ってくるよ!」
「はい神様、行ってらっしゃい!」
「ヘスティア、弁当を忘れているぞ」
「ああ、ごめんよ!」
ヘスティア・ファミリアが結成されて以降、珍しい、と言うよりは初めて起こる朝の光景。いつもの逆で、ベルがヘスティアを見送る構図である。
理由としては単純だ。二人目の眷属である青年、タカヒロに対し、ベルが師事することが決まったためである。二人して彼女を見送ると、テーブルを挟んで椅子に腰を下ろした。
「さて、師と呼ばれる程出来た男ではないが……頼まれ請け負ったからには全力でやらせてもらおう、宜しくなベル君」
「はい、師匠!」
互いに右手を出し、握手を交わす。少年さが抜けきらない柔らかな手と、幾度の危険を乗り越えてきた青年の少しゴツゴツした掌が合わさった。
とは言っても、初日から武器を使ってドンパチする気は持ち合わせていない。まずは午前中を使って、いくらかの対話というところから入るようだ。午後はいつものダンジョン探索であり、本格的な訓練は明日からのようである。
青年が最も大事と考えるのは、少年にとっての戦う理由。“装備集めの結果として世界を救った”と言うバカバカしいにも程がある過去を持つ人間が言える立場ではないと本人も自覚しているが、それでも、今後を左右する重要なカテゴリだ。
人間とは、目標や欲望を持って生きるモノである。それが明確であるうちは、我武者羅になって。それこそ、死ぬ気になって頑張れるというものだ。冒険者でなくとも、日々の仕事や暮らしにおいても似たようなことが言えるだろう。
逆に、道を見失えばどうなるか。気力は下がる一方で堕落の限りを続け、やがて生きる意味すら見失うだろう。故に青年としては、まず少年が剣を取る理由を知らなければならなかった。
「……だからって、“ハーレム”か。いやまぁ、男だもんね。人によっちゃそんな情景を抱くかもしれんけど……男女関係の難しさって、知ってる?」
「え、えへへ、分かりません……」
そして予想外にも程がある目的を知った青年は、思わず眉を伏せて溜息を吐くこととなる。もちろんそんな難しさなど微塵も知らず正直に話す少年だが、笑って誤魔化す他に道が無い。
この師にして、この弟子の戦う理由である。案外、毛髪以外でも根っこは似たもの同士の二人なのかもしれない。
その後、希望する戦闘スタイルとしてナイフによる攻撃型を想定していることが少年の口から告げられる。速度と手数にモノを言わせるタイプであり、タカヒロの中では1つのビルドが思い当たっていた。
もっとも、それを実現するならば専用の装備などが必要であるために無理難題となるだろう。しかし真似事はできるかと考え、彼は一つの提案を行った。
「ベル君、戦いに使うナイフは一本?」
「一本……?あ、双剣のスタイルですか?」
「ああ、双剣のスタイルなら“質の悪いお手本”が1つあってね。こんなスタイルはどうかと思ってさ。参考までに見せてあげるよ、ちょっと外に出ようか」
ガチャリとドアを開け外に移動し、昼手前となった日差しの下で二人は向き合う。人気のない廃教会前の広場は、遠くからの活気が微かに木霊する程度の静かさだ。
もっとも、対峙するとは言っても互いに私服であり武具の類は一切無い。戦いとは程遠い状況ながらも、彼はどこからか2本の剣を取り出した。
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