第12話
友達と、それも女の子と学校帰りの制服でショッピングモールにやってくるなんて僕はこれっぽっちも考えていなかった。
だけど現実は不思議なもので、実際に経験してしまっていて、実感が湧かないようなフワフワとした視界がぼんやりと動き始める。
複数あるアパレルショップを出たり入ったりと忙しなく動き続ける戸山さん。
僕はあまりお洒落に関心が無い人間だからどれが良いとか今年の流行とは分からない。
だけど関心が無かったからこそ面白いと思える部分も多少はあって、脳が未知の知識を吸収しようとしていた。
「悠仁先輩って何か趣味とかあるんですか?」
歩きながら戸山さんは僕に問いかけてきた。
戸山さんはいつも話すときは相手の顔をよく見る子だ。現に今も僕の瞳を覗き込むように聞いて来る。
身体も少し前のめり気味にするから、仕草の一つ一つがとても印象に残る。
戸山さんと出会ってもうすぐ3ヵ月だけど、それが戸山さんの質問に対する答えになるような気がした。
「趣味は特にないんだけどさ。最近、結構音楽を聴くようになった。戸山さんと仲良くなったのがきっかけかな」
「そうなんですかっ!どんなジャンルを聞くんですか?」
「ジャンルは特に気にしてないかな。最近はこのあたりでも有名なガールズバンドがアマチュアだけど結構いるみたいでさ。何曲か聞いたんだ」
レンタルCD屋で、たまたまそういうチラシが貼られてあってその時に初めて知った。
チラシにはバンド名しか書いていなかったがCDは貸出可能になっていて、僕はその時にプロ顔負けじゃないかって驚嘆したのを今も覚えている。
技術は確かにプロとは差があるのは素人の僕にも分かるけど、その違いは些細な物に感じる。
加えてCDまで出しているんだから、もう音楽で生きていけるのかって思った。
「ど、どのバンドの曲を聞いたんですか?」
戸山さんはオドオドとした雰囲気を隠すことが出来ないのだろうけど、本人なりに隠して僕に問いかけてきた。
確かに戸山さんはバンドをやっているらしいから、評価とかは気になるのだろう。
そうだなー、と顎に手を置きながら考えるフリをした。
こんな時はなんて答えるのが無難なのだろうか、ってずっと考えていた。
ほんとは本音でズバッと言えたら苦労なんてしない。だけど僕はちょっとだけ戸山さんの事情を知っているから、控えてしまう。
「どのバンドも一曲は聞いたよ」
「そ、そうなんですね!」
「聴いてていつも感心するよ。同年代なのにまるで他人に与える影響力が違うじゃん?同年代のスポーツ選手の活躍とかも見てて思うけど、すげぇなって思っちゃうよね」
同時に僕はこの世界のどこにいるのかも分からないようなちっぽけな存在なんだよなって思い知る。
人生は自分が主人公だけど、どうにも主人公感が無い。
自分が楽しかったらそれで良い。だけど何か物足りなく感じてしまうよね。
そんな世間にも認知されるような彼女たちに比べて、学力テストの結果の掲載で一喜一憂している生徒たちがますます可哀そうに思えてきた。
「悠仁先輩」
「ん、どうしたの?」
「いや、何でもないですっ!服ばかり見ててもつまらないですよね?次はゲームセンター行きませんか?かわいいぬいぐるみとか欲しいなー」
僕は、戸山さんの手首をギュッと握った。
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