第14話
昼間は季節の割にギラギラと照らしていた太陽も帰っていって、代わりに出てきた月が対照的に優しく僕たちを照らしている。
きっと月も太陽の張り切りように嫌気がさしていたのだろう。そう思わせるには充分なくらいほんのりと存在感を示していた。
みんなが昼間から暑い暑いと文句を言っていたから、自分は快適な気候をサポートするよと言わんばかりの世渡り上手さにため息が出そうになる。
僕の右手がキュッと握られたような気がした。
横を見ても何も表情の変わらない戸山さんが機嫌良く、時折鼻歌も混じらせながら歩いている。
悠仁先輩、晩御飯、一緒に食べませんか?
ショッピングモールを満喫し、良い感じの雰囲気になった時に伝えられた彼女の言葉。
女の子からの誘いを断るはずがない僕はもちろん了承した。
お昼のあの時からずっと僕たちの手は繋がっていた。
途中で手汗がすごい事になっているような感じがしたので戸山さんに一旦離しても良いかと聞いたが気持ちが良いくらいの拒絶の言葉と、繋がっていた手がより一層強く結びつくこととなった。
そしてその時に僕の心に一つの思惑がぷくっと膨れ上がった。
それは彼女が、戸山さんが僕の事を好きなんじゃないかと言う疑惑だ。
「悠仁先輩っ!何を食べますか?」
「うーん、そうだね……」
おっと、ここで戸山さんから問いかけが来た。
急いで自分の中で展開していた感情をファイルに入れて整頓するかのように綺麗に片付けた。もちろん気になるところには付箋を貼っておく。
こういう時は普段いかないであろう、路地裏にありそうなお洒落なイタリアンとかに行くと好感度が上がりそうに感じる。
しかも僕は散歩していた時に、その条件にぴったり当てはまるお店を知っていた。
「ちょっとゆっくりしたいし、あそことかはどう?」
「良いですねっ!行きましょー!」
戸山さんは僕の手を握ったまま走り出して、僕は危うく転んでしまいそうになったが寸前で耐えてヨロヨロとした体制のままついて行く。
僕が指さした先にあったのはどこにでもある全国チェーンの回転寿司屋。全皿100円プラス税込みで食べられる庶民的なもの。
まだ僕たちは深くお互いを知らないし、最初から飛ばしすぎてもダメで、徐々に上っていくのが定石だって思うから。
お店の中は平日にも関わらず賑わっていたのは、丁度晩御飯を食べる時間帯だからかと察した。
だけど店員さんに2名で来たことを伝えると、席を案内してくれたので運が良いと感じた。
この時、半日ぶりに僕は戸山さんの手を離した。
まだ彼女の手の触感が残っていて、少しむずがゆい。
「回転寿司ってどうしてかワクワクしませんか?」
「あ、なんか分かる。ちょっと子供心とかくすぐられる感じがするよね」
「そうですよね!うーん、何食べよっかなー」
ひっきりなしに回ってくる寿司を見ながらニコニコとしている彼女は可愛らしかった。
最近は回ってくる寿司よりも注文パッドで注文した寿司しか食べない人もいるらしいが、僕自身はそんなことはお構いなしだ。
僕は一皿目にアジを取った。
渋いかもしれないけどアジとかイワシなどの、俗に言う光り物が好きだったりする。同級生とか誰一人僕の趣向と合わないらしく、自分でも少し変わっているという自負はある。
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