第16話
次の日の僕の目覚めは良くも無ければ悪くもない、いわば普通の目覚めで、日常と言う名の僕の本にしおりを挟んでおかなければ1週間後には軽く忘れてしまうような1日の始まりだった。
だけど一つだけ気になるのは、真っ黒い「何か」が何とも言えない表情をしているにも関わらずだんまりを貫いたまま僕の隣にぴったりとくっついている事だ。
不思議な事に母さんや坂本には見えないらしい。僕もついに頭がヘンになったのかもしれない。
そういえば今日の朝に気付いたことがあったんだった。
僕はそれを確認するために携帯のスタートボタンを押して、今までに何前回も押してきた暗証番号である4675を流れるように無意識で打った。
「あ、まっさん。お前にとっておきを言うの忘れてた」
「……坂本のとっておきとか死んでもいらないんだけど」
坂本が右肩にポン、と置きながら話しかけてきた。
せっかくだけれど、他人と話すときに携帯を触るなんてしたらいい印象に見られないから一度携帯の電源を落とした。
坂本の顔を見たら、気持ちが悪いくらいのニヤニヤ顔をして僕の顔を覗いていた。
実はクラスの一部の女子からは「坂本スマイル」が胸キュン仕草だと言われているらしい。ただ胸キュンするだけで彼氏にはしたくないとその一部の女子は僕に言っていた。
ある理由でそれなりに女子と交流があるのだ、僕には。
「そういうなよ、朗報だ」
「ますます聞くのが嫌なんだけど、何?」
そんなニヤニヤ顔から朗報が出てくる気が一切しない僕は、ため息をすべて坂本の顔面に吐きつけてやった。
坂本からの朗報には過去にもあった。事例としては課題のお手伝い券が出来たぜ、とか言って2秒で出来そうな紙切れを渡してきたこともあった。
「今度、体育大会があるだろ?」
「ああ、そっか。もうそんな時期だね」
僕たちの高校は進学校だからすべての行事を一学期の前半辺りに一気にぶつけてくる。
体育大会が終わる1週間後には試験準備期間がやってくる。
「体育祭のKAAC、お前が俺らの代表な」
「はああああ!?」
ろくでもないと思っていたらまさかの想像のはるか上に行く朗報で思わず僕は声を上げてしまった。
クラスのみんなも僕の方を見たけど、声を聞いただけで悟ったのだろう、みんな頑張れと手で表現してくる。
察しの良い部分をこんなところで発揮しないで欲しい。
KAACはKoumei Academic Ability Competitionの略で、体育大会のくせに学力で競うクラス対抗戦。
S特進クラスのガリ勉のもやしどもは運動が苦手な人が多く、体育大会をしても楽しめないのは良くないという理事長の鶴の一声で始まったバカすぎる競技。
僕たち底辺クラスは運動で、特進クラスやS特進クラスはこのKAACで得点を狙うのが定石らしい。
もう分かると思うが、KAACの配点がマジで頭湧いてんのかと言うレベルで高得点だったりする。
何より体操着で学力勝負って傍から見たらすごくシュールで、出来れば関わりたくない。
「まっさん……心の声のつもりかもしれないけど、声に出てるぞ」
「うそっ」
「すげー口が悪くなってるのに気づいてくれ」
そればっかりは仕方が無いだろう、と思う。
それに僕の声で興味を持ったクラスメイト数人が僕たちの近くまで来て、エールをくれる。
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