ハーメルン
今を繋ぐ赤いお守り
第20話

今日この日の放課後に見たくなかった場面に出くわしてしまった僕は、あの後訳の分からない胸のモヤモヤと頭痛、そして吐き気に襲われた。
胸がモヤモヤと気持ち悪くなる原因はやんわりと想像は出来る。だけど頭痛と吐き気は良く分からない。
でも前も何が原因だったか分からないけど吐き気に襲われたという漠然とした記憶で覚えてる。

誰もいない家に帰って、いつもは手を合わせる父さんの前を素通りして自分の部屋へと向かい、来ていた制服を乱雑にベッドの上へと投げ捨てた。

「どうして僕が……イライラしてんだよ」

そしてふと冷静に物事を見てみると、イライラを服やドアを開ける際などにぶつけている自分に更に嫌気がさした。
僕の傍にいる黒い「何か」は少し大きくなっているように感じたけれど、そんな些細な事(・・・・)に気を向ける余裕なんてこれっぽっちも無かった。

なぜか知らないけど後頭部辺りがやけに痒くなってきて、無意識のうちにガリガリと右手で掻き乱している。

「このイライラは僕のせいか?」

こんなにも苦しいのは僕のメンタル的な面が原因なのか?
たしかに僕はそんなに肝が据わっているような性格の人間じゃないし、勉強以外の事で一発勝負な場面なんかは手が小刻みに震えてしまうほどだ。

だから心を微かに動かしている女の子が他の男と良い雰囲気になっている場面だけを見て動揺している自分がすべて悪いという事なのか。




「……そうじゃあ、無いな」

薄暗い部屋にも関わらず証明もつけないでベッドに座りながら僕は低い声を僕しかいない空間に響き渡らせた。
僕の傍にいる黒い「何か」はニヤッとしながら存在をブクブクと大きくさせる。

携帯の電源を入れる。
薄暗い部屋に現れる一筋の光は、無表情な顔をした僕の顔だけを機械的に照らしていた。

僕は戸山さんにメッセージを送るために親指をきびきびと動かしながら文章を入力していく。
今の様子を第三者が見ればきっと、いつものような嬉々とした表情を浮かべながらやり取りをしていた過去を疑ってしまうだろうね。

「これで二日後の月曜日、話をすることが出来るだろうね」

携帯の電源を落とすと、太陽が完璧に沈んでしまったのだろう、部屋を照らす明かりがすべてなくなって真っ暗になった。
でも不思議と僕の目には、想像しているよりも暗く感じなかった。





二日後の月曜日。体育祭が土曜日にあった為に今日は僕たちの学校は休みだ。
日曜日はどのように過ごしたかと言うと一日中自分の部屋に中に閉じこもっていたと言っても過言ではない。
それくらい今の僕には普段なら楽しいと思えるはずの事をしても馬鹿らしく思ってしまう。

そういえば土曜日から時々戸山さんから携帯にメッセージが送られてきていた。
だけど返信はかなり素っ気なくなった。僕自身返信するのも億劫になっているのだから返信しているという事実は褒めて欲しい。

誰の目から見ても適当に返信しているのに戸山さんはしっかりと返してきているのだけは良く分からない。
僕のいない場所で、僕の話題に盛り上がっていたくせに、って思ってしまう。本当は思ってはいけない事だし、人間誰しもそういう部分が見え隠れする生き物なのだから。

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