第4話
すっかり日が暮れてしまった夜は、太陽が出ている時間帯とは違って思わず身を震えさせてしまうような冷たさを感じる。
昼夜の温度差が激しく、生活環境が大きく変化するこの時期は案外体調を崩してしまう人が多いらしい事をテレビでよく耳にするようになった。
戸山さんとファミレスで、あの後は他愛の無い話をした後に解散となった。
普段することが無くて時間をもてあそばせている僕からすれば今日は充実した、そして世の中の高校生らしい日常を送った日だと感じている。
僕自身友達が少ないわけではないが、それはあくまでも学校内での関係であって、放課後などプライベートはあまり深入りされたくないという考えがあるから、こんな日は随分久しぶりに感じた。
昔は良く友人と放課後は遊びに行ったものだった。
昔と言っても2年前までだけどね。
僕が気づいてしまった高校1年生のあの日以降は、ずっと今のような過ごし方をしている。
自宅に着いて、いつもの場所に自転車を停めて置き、家の鍵を握ってドアを開ける。
「ただいま」
そう言っても返答はシーン、と言う静寂だけで温かい人間の言葉が返ってくることはない。
帰ってきて早々やることは手洗いとうがい、そして仏壇に姿を変えてしまった父親に帰ってきたことを伝えること。
この行動はほぼ習慣化されている。
いつもなら冷蔵庫の中を開いて、中にある具材を適当に使って簡単な物を作るのだけど、今日は戸山さんとファミレスに行って少し食べたから夕ご飯は食べない事にした。
何年着ても慣れない制服を脱いでから、自室の片隅に設置してあるベッドに転がる。
モフッと言う音とともにフカフカとしたベッドの中に埋もれていく身体。
まるで何かに飲み込まれていくような感覚に陥った時、僕はハッとして上半身を起こした。
「僕が何か間違ったことをしているみたいじゃん」
確かに自分の行動が正しいのか間違っているのかなんて判断は出来ないけれど、バカで世間知らずな僕なりに考えて行動しているんだからもうちょっと見返りがあっても良いじゃないか。
……何一人で熱くなってしまっているのだろう、と僕は再び身をベッドに投げた。
僕に見える景色が、たとえ緑豊かな植物も水の色もすべて、灰色に見える。
「目指すぞ!国立医学部!!……か」
僕が高校に入りたて早々の時に、意気込みとして紙に書いて一番目に着く場所に貼った志望校の張り紙。志望校と言っても名前を出してしまえば志望校以上の勉強が出来ないから、いくらでも上を目指せるように書いた張り紙。
今の僕には全く関係のないものだし、日々目障り度が増して言っている。
いっそのこと、捨ててしまおうか。
せっかく横になった身体を起こして張り紙を破って捨てようとした時、僕の部屋の中で着信音が鳴り響いた。
「……もしもし?僕だけど」
「悠仁君?戸山です!」
電話の相手は戸山さんからで、今日の別れ際に戸山さんからどうしてもとせがまれてしまったので連絡先を教えた。
僕の連絡先を知ってどうするのだろうと思ったけど、手を顔の前で合わせてお願いって言われてしまうと断るのも悪い気がした。
僕だって年頃の男子高校生だから、女の子の連絡先を知れることはワクワクすることだ。
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