第6話
平日の夕方にも関わらずたくさんの若者が店内を占める全国チェーン展開しているカフェで、大したものを頼むわけでもないのに長時間並ぶことに頭が痛くなってくる。
僕たちが来店した時に運よく二人用テーブル席が空いたから場所は取れたけど、少しでもタイミングが遅かったらまたファミレスにお世話になるところだった。
別にファミレスが嫌いなわけじゃないんだけどね。
「二点で750円となります」
とても可愛らしい店員さんに僕たちの飲み物代を手渡す。もちろん僕はカフェ内で一番安いコーヒーで値段は290円。缶コーヒーの方がはるかに安いけどやっぱり味に関しては別格だし、久しぶりに美味しいコーヒーを飲んでも罰は当たらないよね。
「おまたせ、戸山さん」
テーブル席で携帯を触りながら待っていた戸山さんの前に、注文した飲み物をそっと置いた。
彼女はわーいありがとう、とまるでずっと欲しかったプレゼントを貰って喜ぶ無邪気な女の子の様な声を出していて僕は静かにほっこりとした。
僕は軽くコーヒーを口に含み、微かに広がる苦みを楽しみながらリュックの中から筆記用具を取り出す。
僕の場合は早く家に帰ったところでする事が無い虚無の時間を過ごす事になってしまうから、極端な話、いくら遅くなっても構わないと思っている。
だけど建前上は筆記用具をチラつかせてハリボテのやる気を見せる。
「では悠仁君っ!教えてください!」
「僕に分かる部分なら、大丈夫だよ」
僕の行動を見ていたのだろう、戸山さんはすぐに勉強に取り掛かるらしい。
勉強はすぐ終わらせて、程々に会話をすれば高校生らしい充実した一日を過ごせる。それだけで僕の虚栄心がくすぶり始めた。
早速分からない数学の問題があったから僕が戸山さんのノートと教科書を交互に覗いた。
これくらいだったら僕でも問題なく分かる。
戸山さんに、まず解き方を教えた。その後にどうしてこんな計算式になったのか、なぜ公式を使ったかの理論的なものを少しずつ伝えていった。
理論さえ分かってしまえば、応用はいくらでも出来る。暗記したってどうせいつかは忘れるし表面的にしか理解できてなかったら捻った問題に太刀打ちできない。
どうせやるんだったら根本的に理解した方が楽じゃないかなって僕は今でも思う。
もう僕は勉強とかするつもりは毛頭もないけれど。
「すごいすごい!悠仁君ってもしかして賢い?」
「遅刻魔で課題出さない人間が賢い訳ないって」
「でも、私がずーっと考えても分からなかった問題をすぐに解いたよ?」
「僕もこう見えて高3だからね」
僕は少し得意げに、だけど控えめに見えるように頭をワサワサと触りながら彼女に言った。
本音を言えば、今解説した問題は僕が高1の1学期に終えた内容だったからそんなに難しい分野ではない。
でも数学って、コツを掴むまでが時間かかるから戸山さんの気持ちもとても分かる。
「あ、あれ?どうした戸山さん」
ふと戸山さんの顔色をみてみようとチラッと見てみたら、戸山さんは元々大きくて可愛い瞳が更に丸みを増しながらきょとんとしていた。
何かおかしなことを言ったかな、と頭の中で僕が無自覚に言った言葉たちを並べてみてもあまりピンとこない。
「ゆ、悠仁君って年上だったの!?」
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