ハーメルン
今を繋ぐ赤いお守り
第7話

いつの日だか忘れたけど、休日のある日。
僕は少しの悩み事を頭に抱えながら夕方の街を徒歩で散策していた。

実は散策が好きで、家庭の事情もあり家に帰ってもほとんど一人の僕は夜の遅くまで外を歩いていることが多々あったりする。
それこそ母親が働いているであろう、高校生が歩き回る場所ではないところでさえも歩いている時がある。

好きな理由は様々あるけれど、一つは小さくても新しい発見があるところ。

こんなところに細い道があるんだ。どこに続いているんだろうか。
このお店はお洒落だな。大人になったら食べ歩きでもしてみたいな。

そんな些細な発見が僕の心にドキドキと好奇心がいたずら好きの子供の様にくすぐる。

もう一つの理由はね……一番最初に出てくることだけどやっぱり。
お金がかからない事だね。

そんなたまに送る、ある意味気分転換にもなりうるこの時間にも関わらず、僕はある女の子の言葉が頭の片隅に引っかかっていていつまでも残っていた。


『気にしなくても良いって言われても、気にしちゃうかな』


少し前に聞いた、戸山さんの口から零れた独り言。
きっと戸山さんは僕に聞いて欲しくて言ったんじゃないと思うけど、彼女の意思に反して、僕はその言葉を耳に入れてしまった。

やはり僕の予想通り戸山さんは悩みの種を持っていた。
これは勝手な事だけど、戸山さんにはいつものような明るい感じでいて欲しいって思う。

「あれ、この良いにおい……もしかして」

商店街に入ってすぐに、僕の鼻が嗅ぎなれた香りをキャッチした。
寝ぼけ眼でボーっとした頭でいるけど、このにおいだけは鮮明に覚えていていつも朝ごはんお世話になっているパンの香りだ。

母親がいつもどこから買ってくるのだろうと疑問に思っていたが、どうやら今日が正解を導くことが出来る日になったらしい。
店名と僕がいつも見ている山吹色の袋に書いてある字が一致した時、心の中の僕が店に入ってみようと言い出した。

「いらっしゃいませ」

店のドアを開けると明るい鈴の音と、若い女の子の声が歓迎してくれた。
女の子は同世代くらいで、まさかパン屋に入って同じくらいの女の子が働いているとは思わなかった。

でも不思議と、僕はその女の子に同情した。
どんな理由があって働いているのかなんて知らないし、どんな理由だって良い。

だけど同情したんだ。
女の子もきっと、何か理由があって休日も頑張って働いているんだ。

「あれ、悠仁先輩?」

考え事をしながらトレイとトングを持ってお店のパンを見回っていると、声が聞こえた。
この声の主は、最近僕の頭の中で何回も木霊しているから会ったのが昨日のような気がした。

「お、久しぶり。戸山さんもここのパン買いに来たの?」
「ちょっと違うけど……おすすめのパン、教えてあげるっ!」

戸山さんは僕の右手の袖をキュッと掴んで引っ張っていく。
不意に距離が近くなったうえに、袖を掴まれているだけなのにまるで手でも繋いだかのような感情が急にブワッと沸き上がってきて僕の体温が上がっていくのを感じた。

「あれもね美味しいし、これも……。さーやのパンはぜーんぶ、美味しいよっ!」
「さーや?」

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