ハーメルン
うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる
連勝
今日の俺の持ち時間は、1分も消費していない。ずっとノータイムで指せるのは、アイの演算能力が高すぎるからだ。俺は何もすることがない。将棋自体も序盤、中盤、終盤と蔵王九段のミスが目立ったので感想戦も無し。順位戦なのに昼過ぎに終わってしまった。
(よっしゃ、帰りにヨド○シカメラへ寄るぞ)
『またパソコンの周辺機器を漁るんですか?っと、九頭竜八一ですよ』
(え、何でまたエンカウントするの?というかあいつも順位戦終わるの早くね?)
「よう、九頭竜。順位戦の方は終わったのか?」
「大木か。ちょっと気分転換に外を歩いていただけだよ」
「……なあ。もし竜王になれたら、竜王戦の優勝賞金で焼肉奢れ」
「ハハハ……。俺が本当に竜王になれたら、焼肉ぐらい奢るよ」
「言ったな?約束だからな?」
この時期の九頭竜は、竜王戦の決勝トーナメントを勝ち進んでいる最中だけど、まだタイトル挑戦も現実味が無い模様。順位戦の方は早々に負けて昇級の芽が潰れたし、世間からの評価もそこまで高くない。
竜王戦の6組トーナメントで優勝はしているから、将棋ファンの間ではようやく名が広まり始めた感じ。一方で俺はプロとしてスタートしてから、無敗の23連勝中なのでマスコミが注目してくれている。
このまま行けば30戦目が歩夢との対局なので、そこで負けよう。ちょうど記録を塗り替えた後に、次世代の名人にあとちょっとで負ける感じなら歩夢の方が評価の上がる結果になるはず。
『いえ、29連勝した時点で世間に将棋ブームが起こるはずですよ。大木晴雄の名前も、世間に広がります』
(えー。別に良いし嬉しいけど、タイトルも取ってないのに評価が上がるのは複雑な気分にもなる)
『私もマスターの醜悪な顔が世間に広まってしまうことは残念です』
(顔は普通だろ!九頭竜や歩夢のように整ってはないし、比較すると残念な顔かもしれないけど、醜悪は泣くぞ)
九頭竜とは軽く会話だけして立ち去る。まだこの時期は外に出ても良いし、ソシャゲもし放題だ。今回はvsの約束をきちんと断ったけど、わりと分かりやすくしょんぼりしていて罪悪感が募った。とりあえず九頭竜が竜王を取るまでは、なるべく関わらないようにしておくか。
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