ハーメルン
うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる
九頭竜竜王


熱くなる神鍋だが、同時に底冷えするような寒さに襲われていた。その雰囲気を作り出しているのは間違いなく大木であり、神鍋は常に50秒以上考えてから着手しているのに対し、大木はここまでずっと、ノータイムでの着手だった。

神鍋の穴熊は既に崩され、蓋をする銀が浮いた。そこへ大木の角が突っ込み、さらに陣形が崩される。既に神鍋の牙城は崩落していた。

神鍋の銀の頭に、大木は持ち駒の桂馬を打ち込む。今までの王手ラッシュとは違い、これは王手ではない。しかし取っても地獄、取らなくても地獄という手であり、攻め合うか、守るか、短い時間で神鍋は読み切らなければならなかった。

秒読みの声が聞こえる度に、焦る神鍋は最後の最後まで取るか取らないかで迷う。しかし突然、大木がため息をついて口を開く。

「負けました。1三銀を指して下さい。投了しますので」
「何!?どういう……「50秒……55、56、57」ええい、ままよ!」

大木の突然の投了宣言にその場は騒めき、記録係は秒読みを一瞬忘れそうになったが、すぐに秒読みを再開する。神鍋は大木の指示通りの場所に指し、大木は投了した。このような暴挙に出た理由は、アイの代わりに大木が指してしまったからだった。

(おい、歩夢が自陣の方を見て悩んでるぞ。どうにかしろ)
『マスターが勝手に勝負手を指すからですよね?今の時点で自玉に即詰みがあるんですから、受けて下さいよ』
(え?即詰みあるの?相手に渡ったの、桂馬と角だけだろ?えっと……)
『長いですが21手詰めです。しかしこのままだと、勝ってしまいますからマスターが投了して一手目を示して下さい。1三銀です』
(りょーかい。しかしまあ、銀頭を見たら桂馬をぶち込みたくなる癖は直さないとな)

30連勝目を賭けた戦いで、自身の即詰みを自分から言う大木を見て、神鍋は言葉に出来ない恐怖を感じた。それと同時に、絶対に乗り越えなければならない壁だと再認識する。対局後、神鍋は改めて今日の棋譜を確認し、ここで大木が持ち時間を一切消費していないことにもう一度SANチェックをした。



(いや、SANチェック云々はアイの妄想だろ。でも順位戦の方はまだ負け無しだし、何とか原作開始時点での差異はあまり無い状態になったな)
『九頭竜が、11連敗か12連敗でしたっけ?それを達成してくれないと差異が無いとは言えませんよ』
(あー。そもそもあいちゃんと口約束をしたのかも不明だしな。何とかあいちゃんと九頭竜は師弟にしたいわ)
『どーなりますかね。私に出来ることは、大体したつもりですよ』

九頭竜が竜王を奪取した後は、焼肉を奢って貰って竜王戦の一部始終を話して貰った。その中で旅館の女将の娘さんからお水を受け取った云々のエピソードは出て来たので、無事原作は開始出来そうだと認識する。

年が明けた後は九頭竜がらしくない将棋で連敗はせずとも負けが込み、掲示板ではちょくちょく九頭竜が叩かれ始めた最中、俺は朝火杯の早指しトーナメント戦で優勝し、順位戦で既に五段昇段を果たしていたため、六段に昇段した。

九頭竜が8月生まれなのに対し、俺が11月生まれのため、五段と六段昇段の最年少記録は俺が更新することに。まあどうせ数年後には、あらゆる最年少記録を塗り替える(予定の)小学生棋士椚創多が出て来るし、一時的なものだろう。

[9]前 [1]次話 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/2

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析