ハーメルン
嘘つきの道化師 
4

頭を少し突かれた気がしてう、うーんと目を覚ます。ぼやけた視界と反射的に目を擦りながらふぁぁと大きく欠伸をする。

「おーい、起きたか、奥沢さんよ」

「ん?あーおはようございます、市ヶ谷さん」

ぼやけていた視界が定まり、前の席に座っていた違うグループではあるが同じくバンドをやっている市ヶ谷有咲さんの顔がきちんと見えるようになる。市ヶ谷さんはPoppin partyのベース担当で、なにかと戸山香澄さんと仲が良い。それでいつもなら戸山さんが市ヶ谷さんにべったりなんだけど今日は見当たらなかった。

「あれ、戸山さんは?」

「香澄のやつなら起きるのが遅かったから置いてきた」

壁に背をつけている市ヶ谷さんが飄々と言う。バッサリ行ったなぁと思わずもらし苦笑してしまう。それに対して市ヶ谷さんはまぁなと言い両肩を上げていた。

「それにしても朝から寝てるなんて、奥沢さんにしては珍しいじゃねぇか」

「まぁね、今日は朝早く起きて河川敷走ってきたからって言うのがあるけど」

それを聞いた市ヶ谷さんは顔だけこちらに向けてくる。

「河川敷走ってきたのかよ」

「そうですよー、意外と気持ちよかったですし、一緒に走ってみます?」

いや、やらんっと速攻で断られ、ですよねーと空笑いしながら相打ちする。すると、何かを思い出したかのようにあっと市ヶ谷さんが言葉を発する。

「そーいや、奥沢さん達のところには例の話し出てるのか」

「え?なんの話」

身体もこちらに向けて私の机の上に片手を置く。

「え、知らないのか、前夜祭のアレ、ハロハピの方にも情報いってると思うんだけどな……」

あー昨日のアレのことか、確かにポピパに所属している市ヶ谷さんが知らないわけないか。でも、昨日決められた事は多分知らないしあの事は情報共有していいかな。

「それについては知ってると言うか、それについて少し市ヶ谷さんに話したい事あるんだけど」

おう、なんだと市ヶ谷さんが相打ちを打つ。

「ミッシェルが一日中ステージに駆り出されることが、私の意思関係なく決まったんですよ」

ぶっふぅっと市ヶ谷さんが息を吹き出す。それから慌てたように私の机を両手で叩きながら立ち上がり、前のめりになる。

「ちょっと待て、正気の沙汰か、それ!って言うか良くそれを許したな!」

流石、ポピパ唯一の良識人、正しい反応になになった。真夏の会場、他の人達は薄着をしている中、ミッシェルと言う着ぐるみに一日中入らなくてはならないと言うヤバさ。そして、こころが持っている変な洞察力のお陰で代打すら許されない酷い縛り……改めて思うと本当にこれはおかしい。

「だから、今言ったじゃん、私の意思関係なく決まったって」

少しばかり取り乱している市ヶ谷さんを宥めつつ、昨日あった事を一通り話す。部活終わりにこころ邸に呼ばれた事、その時に前夜祭の話と無断でミッシェルが一日中駆り出される事になった事。流れでもう一人のミッシェルを作り上げてしまった事を話すと市ヶ谷さんは苦笑いをする。

「あんたも大変だなぁ本当……ただ最後の一件は完全にあんたが墓穴を掘ったな」

「ぬぐ……否定できない」

クククっと壁にまた背を預けた市ヶ谷さんが楽しそうに笑い、落ち着いた感じに指で机を叩く。タタンッと音が鳴りふぅーと市ヶ谷さんが息をはき、目線だけをこちらに向け、片方の目の目蓋を上げる。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析