第十話 Lifeline
「凄い機動だね、まるで踊ってるみたいだ」
後席のアレンが手摺を掴みながら言う。離陸直後の急激な機動でも減らず口を叩けるとは、この男も意外といいパイロットなのかもしれない、とリーパーは思った。
「それで、ジェット戦闘機に乗った感想はどうだ?」
「最高だね。このままお酒を飲めればもっと嬉しいんだけどね」
「それはダメだ」
フランカーは巡航速度を維持したまま、高度を上げていく。レーダースクリーンの端に、6つの輝点が表示される。リーパーに先立って離陸していた、コトブキ飛行隊だ。IFFなど搭載していないので当然敵味方の識別は出来ないが、距離と機数からコトブキ飛行隊で間違いない。
「凄いね、この距離でもうレーダーで捕捉できるなんて。羽衣丸搭載の物より性能がいいんじゃないかな?」
「地球での空戦は距離が命だからな。先に相手を見つけた方が勝つ」
と言っても、最近では格闘戦が当たり前のように発生しているが。地球に落下したユリシーズの破片に含まれていた特殊な鉱物が、粒子となって漂っているせいだ。
特殊な磁気を帯びたその鉱物が風に吹かれて地球を循環しており、レーダー波を妨害してしまうことがある。AWACSやレーダーサイトの超強力なレーダーですら時折機能不全に陥ってしまうこともあり、目視可能圏内に入ってようやくレーダー探知、なんてこともある。
ステルス戦闘機の登場で既存の戦闘機は全てただの的になるかと思われていたが、そんなことは起きなかった。むしろレーダーの不調が発生することで、既存の古い戦闘機でも十分戦える環境が発生している。アフリカの反政府勢力では、今もMiG-21やF-5Eといった古い戦闘機が主力として使われていて、しかもそれが活躍していると聞いたことがある。
「今の速度はどれくらいなんだい?」
「マッハ0.9」
「遷音速か、でもこれが最大速度ってわけじゃないんだろう?」
リーパーはスロットルをわずかに前進させた。機体が加速し、マッハ1を超える。
「おめでとう。あんたは今、たぶんイジツで初めて音速越えの飛行機に乗った男になった」
「それは嬉しいね。できれば最大速度も体験してみたいんだけどな」
「燃費が悪くなるからダメ。こっちで調達できるんなら話は別だけど」
隼や飛燕、疾風に搭載されているレシプロエンジンの燃料はガソリン。一方ジェット戦闘機に使われているのはケロシン―――つまり灯油だ。理論上ガソリンも使えないことはないが、不調が発生したら困る。リーパーにはエンジンをオーバーホールできる技術はないし、あったとしても部品が無い。地球への帰還を目指すには何としてもフランカーは飛ばせる状態を保っておかなければならず、ガソリンをぶち込むなんてのは言語道断だった。
「イケスカではジェット戦闘機用の燃料を精製していたと聞くけどね」
「イケスカ?」
「イサオっていうわるーい奴がいてね、そいつが市長をやってたイジツで最大の都市さ。ジェットエンジンを実用化していて、さらに地球から迷い込んできたジェット戦闘機も運用していたらしいよ」
そのどっちも今はないけどね、とアレン。自分以外にも時折イジツに迷い込んでいた人がいたらしいことは彼から聞いていたが、ジェット戦闘機まであったとは。
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