第一二話 Shattered Skies
『えー、それではラハマを救ってくれた我らがユーハングの友人に対して乾杯したいと思います。乾杯!』
ラハマの一角、土俵のような屋外会議室が設けられた広場には、大勢の人々が集まっていた。町長を始めとしたラハマの住人、そしてオウニ商会のようにラハマを拠点として活動している商社の人間だけでなく、普段は街で見かけることのないスーツを着た身なりのいい人間もいる。ユーリアと共にガドールからやって来た議員団と、今日やって来たばかりの各都市の商社代表や記者たちだった。
人々が集まった目的は、リーパーを歓迎するためだった。70年ぶりにやって来たユーハングの人間。ラハマの住民は街を襲った空賊を撃退したリーパーに感謝の意を伝えるため。そして外からやって来た人々はユーハングの最新鋭戦闘機に関する情報を集め、少しでもリーパーと繋がりを作っておくため。
それだけ大勢の人間が集まれるホテルなどはラハマには無い。そのため広場を開放しての立食会が開催されることとなった。街の規模を考えると豪華な料理がいくつもテーブルに並び、人手が足りないということで駆り出されたジョニーやリリコがラハマの人々と共に調理を行う。町長の合図で皆がグラスを掲げ、さっそくリーパーはスーツの男たちに囲まれた。
「いやあ、あの戦闘機は素晴らしいものですな。流石ユーハングだ」
「爆撃機をあっという間に撃墜した時は信じられませんでしたよ。まさかあの富嶽をたったの1機で撃墜するとは」
「是非、近くでじっくりと見てみたいものですな」
「ユーハングではあのような戦闘機が主流なんでしょうか?」
誰も彼も恰幅のいい立派なスーツを着た男たちだ。どこかの会社の社長や銀行の代表、といった肩書と共に男たちが名乗るが、彼らにもみくちゃにされるリーパーは一々名前など憶えていられなかった。愛想笑いと共に、怒涛の挨拶ラッシュを受け流していく。
「ユーハングからも今後大勢人々がやってくるのでしょうか?」
「さあ、私は迷子みたいなもので…」
「迷子? それは大変だ。ユーハングと再び交流が再開するその日まで、是非我が社でお世話させていただきたい。ご安心を、何一つ不自由な生活はさせませんよ。ユーハングの進んだ文明に比べれば劣るでしょうが…」
この世界での居場所がないというリーパーに対して、保護を申し出る者もいた。もっともその狙いはリーパーの持つ地球の知識と、何よりフランカーだろう。
ラハマを空爆しようとした爆撃機編隊を撃墜し、ついでとばかりにコトブキ飛行隊や自警団と交戦中だった零戦を撃退したリーパーは、ラハマの住民の歓声に迎えられ飛行場に着陸した。そのフランカーは今は町長専用の雷電と共に洞窟に格納されており、中に誰も近づけないよう自警団員たちが見張っている。
数キロ先からでも正確に目標まで到達し、爆撃機を一発で撃墜するロケット弾。隼の倍以上の速度で巡行が可能で、最大速度はそれよりも遥かに速いジェットエンジン。300キロ以上先の目標まで正確に探知するレーダー。どれもこれも、今のイジツでは作れないものだ。
イジツの空を飛んでいる飛行機は、地球で言えば第二次世界大戦時の技術レベルのものばかり。ユーハングか去ってから、イジツの航空技術はほとんど進歩していない。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク