第四話 Offline
オメガとの交信が途絶えてから、リーパーは味方との通信を復旧させるためありとあらゆる手を試した。データリンクシステムを再起動し、司令部を呼び出した。しかし付近の空域で、リーパーの問いかけに答えてくれる味方はいない。
GPSも電波が届かず、エラーの表示を吐いたままだ。衛星が撃ち落とされたり、強力なジャミングが掛けられているのでもなければ、軍用GPSは常に正確な座標を示してくれるはずだった。ユージア軍も馬鹿じゃないので、衛星を撃ち落とすような真似はしないだろう。宇宙条約破りの攻撃を仕掛けてしまえば、報復で自分たちが使っている衛星も国連軍に全て落とされてしまうからだ。半面こちらも、ユージア軍が衛星軌道上に設置した兵器システムへ手を出すことが出来ないのだが。
ユージア軍がジャミングを仕掛けてきている様子もなし。仮にジャミングでGPSやデータリンクシステムが全て狂っているのだとしても、一瞬のうちに太平洋から無限に続く荒野に移動してきたことの理由がつかない。寝ぼけていてユーラシア大陸まで飛んでた―――なんて予想は、オメガとの交信で即座に否定された。オメガは予定のコースを飛行していたのに、一瞬で自分だけどこか遠くまで行けるはずもない。
リーパーは最終手段として、オープンチャンネルで救難信号を発信することにした。これを誰かが聞いていてくれれば、こちらの座標を特定して救助を送ってくれるだろう。やってきたのがユージア軍だったらと思うと若干気が重くなるが、この状況から助け出してくれるのであれば誰でもよかった。
もっともユージア軍がリボン付きの死神のエンブレムを目撃したら、こちらが救難信号を発していても彼らは容赦なく攻撃してくるだろうが。「リボン付きは発見次第最優先で撃ち落とせ」、などという命令がユージア軍には出ていると聞いている。
リーパーはメーデーを発しつつ、周囲の状況を確認した。どこまでも続く荒野。ところどころに川や湖が見えるものの、海はどこにもない。となると、ここはどこかの大陸の上だろうか。
もしかして目的地のオーストラリアに着いたのでは? などというバカげた想像をする。無論、オーストラリアのはずがない。着く前に燃料切れで墜落している。
先ほど穴があった場所を中心に旋回を続ける。地上にはいくつか町が見えた。町と言ってもコンクリートで出来た高層ビルなど一つもない。何もない荒野の真ん中に、民家が寄せ集まってできている町。まるで昔映画で見た、開拓自体のアメリカのようだ、とリーパーは思った。
奇妙なことに、どの町にも飛行場らしき設備がある。ユージア軍は大陸の各地に秘密の飛行場を構築し、そこから大量の戦闘機を発進させていると聞く。となるとあの飛行場がある町も、ユージア連邦に属しているのだろうか。
もっと低空を飛行すれば町の詳細を把握できるのかもしれないが、あの町の住民たちが友好的であるという保証は何もない。ユリシーズの厄災後、貧しい人々や国家はかつての大国や国連から見捨てられ、その恨みからユージア連邦に加わっているものも多い。あの町がユージア派であれば、国連軍所属のリーパー機が近づいてきたら地対空ミサイルを発射してくるかもしれない。ミサイルを警戒したリーパーは、高高度を保ったまま飛行を続けた。幸い離陸直後、しかも増槽を抱えているということもあって、燃料はほぼ満タンに近い。
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