真価
時は少し遡る。
ライがボーダー本部により発見・保護された翌日の事。彼は朝食を基地内の食堂で済ませると、資料室を訪れていた。
この世界がかつての世界と異なるという事はすでに理解している。故に知識の整合性を取っておくべきだろうと考えたのだ。
今日が休日という事もあってか朝からそれなりに人が見受けられる。
邪魔にならないようにと空いている椅子に腰かけ、手に取った数冊の本を机の上に置き、ページを捲り始めた。
地理や歴史、文化に関する本。様々な種類の本へと手を伸ばしていく。
(……驚いたな。ここまで違うのか)
およそ一時間ほどだろうか。
ある程度読み飛ばした部分もあったものの、おおよその知識をインプットする事ができた。そして想像以上の差異に戸惑いを覚える。
(歴史が違う以上、国も異なるのは当然だ。だが星が異なるとなればそこから派生する学問なども変わっていくというものなのか)
先のボーダー隊員との会話で地理・歴史の分野が異なっているというのは知っていた。確認したところ、中世までの流れはほとんど相違はない。近世からの流れが変わり、そしてこの現代に至るというものだった。
ここまではいい。だが予想外なのはむしろ世間に広く通じる文化の方だ。特に天文に関与するものは大きく異なる。
(星座なんて僕が知るものと一つも一致していない。最低でも自分の物だけは即答できるように覚えておかないと)
誕生日ごとに決まる星座などは完全に別次元だ。知っているはずの名称が一つもない。やはり星が異なると見えるものも変わってしまうものなのだろう。会話で困らない様、最低限の物だけはすぐに受け答えられるようにしておこうともう一度本の項目へと視線を落とす。
(『はやぶさ座』、か)
ライの誕生日は3月27日。当てはまるのは偶然にも表の一番最初に記載されていたはやぶさ座だった。地球上最速の生物と知られる鳥類。これも何か意味があるのだろうか、とそんな事あるはずもないのにどこか可笑しく思えて——
突如、誰かがトントンと軽く右肩を叩く。
「よっ。何を読んでんだ?」
そちらを向くと、昨日会ったばかりの米屋の姿があった。
「米屋さん」
「陽介でいいって。昨夜はちゃんと寝れたか?」
「ええ。ありがとうございます」
現在ライには本部内の空いていた作戦室の一室を居住区として与えられている。
本来近界民に住宅等を破壊された者には警戒区域外に家を与えられる場合が多いのだが、こちらの方がすぐに用意する事が出来た事、そして拉致被害者という事でボーダー本部に滞在してもらいたい、という組織の意向が反映された。
当然ながらあくまでも一時的な処置であり、準備ができたならばきちんとした場所に移り住んでもらう。――という予定を上層部は立てている。より詳しく言えば立てていた。
『いえ。可能ならば、このままここに住まわせてもらえませんか?』
だが部屋を貸し与えた際、ライがこの部屋を貸してもらえるならばここが望ましいと返答した為にその計画は中断されている。
隊員はB級に昇格できれば隊を組む事が可能になり、隊毎に作戦室を与えられるというシステムだ。故に彼が無事に正規隊員になれば確かに彼が言う通りそのまま部屋を貸し出す事ができる。
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