ハーメルン
REGAIN COLORS
唯一無二

「……いいのか? 別にこちらとしては学生には学業を優先してもらって構わないという方針だ。学費の点を気にしているのならばこちらから支援させてもらう。それについては君が心配する必要はないぞ」

 高校への進学を断られるとは思ってもいなかった。
 忍田が言う通りボーダーに所属する多くの隊員は学生だ。彼らは基本的に学業を優先しながら防衛任務についている。学校に通う際に生じる費用も支援金として準備するため彼が通学に関して障害に思うものはないはずなのだが。説明を受けてもライは首を縦に振らなかった。

「その提案は確かに魅力的です。おそらく本心で仰ってくれているのでしょう」

 ですが、とライはそこで言葉を区切る。

「あくまでもそれは忍田さん一個人の意見(・・・・・・・・・・)であり、本部長やボーダー本部上層部からの提示ではないはずです」
「それは……」

 彼はこの誘いがボーダーの総意ではなく、あくまでも一人の意思であり、上層部全員が望んでいるというわけではないと考えていた。ライの指摘に忍田は強く言い返せずに言葉に詰まる。それが何よりも明白な答えとなった。

「僕は招かれざる客ですから。故意の有無は関係なく、僕という存在が外部に広がってしまうリスクがある選択は、避けるべきでしょう」

 そう語ったライは一礼して挨拶を済ませるとその場を後にする。
 この話題について自分がこれ以上話す事はないという彼の意思表示だった。 


————


 同日、夕方に行われた会議でこのライの議題が上げられる。

「——驚きました。まさか断るとは想定外です」
「ええ。ですがこちらにとってはありがたいもの。B級に昇格すれば必ず名前はネットに上がりますからねえ」
「嫌でもボーダーの話題には入ってくることになる。彼が話してしまう可能性もある。加えてたとえ彼が口を滑らせずとも、他の者が打ち明けてしまう可能性だってある。その点は我々ではコントロールできないという事を考えれば、確かに根付さんが言う通りボーダーにとってはありがたい」

 驚きこそあったものの、彼がこの提案を断ったという事は彼ら上層部にとっては朗報だ。
 ボーダー隊員はB級以上の者は全員の名前が広報サイトに記載される。少し調べれば誰でもわかる事だ。クラスメイトにボーダー隊員がいればすぐに判明する事だろう。
 故にもしもそこから彼がボーダー所属だと判明し、彼の話題になり、どこからか彼の出自が明らかになれば。混乱が広がる事は火を見るよりも明らかだ。それは非常に避けたい事だった。もしもメディアに嗅ぎ付けられれば大問題に発展しかねない。

「そうでなくても現在の三門市は流出する人こそ多いものの、新たに入ってくる人は少ない。知らぬ同級生がボーダー隊員となれば必ず注目が集まります。可能性はさらに高いでしょう」

 さらに唐沢が危険性について補足する。
 三門市はかつての大侵攻以降、新たに移り住む人は少なかった。今も残っている人の多くは元から三門市に住んでいた人を除けば侵攻時に現れた防衛隊員あるいはメディア関連の者ばかり。
 そんな中にライが現れれば必ず注目される。彼はその容姿の観点から見ても他人の視線を集めがちだ。高校内でも変わらないだろう。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析