副作用
二本の弧月が振るわれた。刀同士が衝突し、金属音が耳を打つ。互いに相手を切り裂こうと火花を散らした。
「ッ!」
「——おおっ!」
鍔迫り合いが続く中、ライが吼える。力で強引に押し切り、灰色髪の相手をのけぞらせた。
体勢を崩した今が好機。身体能力を向上させるトリオン体は一歩の踏み込みで必中の間合いへと詰める事を可能とする。
相手の胸元へ目掛けて渾身の突きを放った。
「くっ!」
少年は咄嗟の判断で右足を軸に左半身を退く。刀は相手の脇腹をえぐるも、致命傷には至らなかった。
(避けたか! ——っ!)
追撃をかけようと腕を戻すが、その動きは敵がライの右腕を脇で挟み込む事で封じられる。
「もらった」
次の動作を封じたライに目掛けて刃が振り下ろされた。
後退は出来ない今回避は難しいだろう。体を捻ろうとしてもこの体勢では無理があった。右腕を犠牲にしてしまうのは間違いなく、利き腕を失うわけにはいかない。
——ならばこちらも肉を断たせるのみ。刃に対して左腕を真っすぐに突き出した。
「なにっ!?」
「こっ、のおっ!」
弧月は掌を斬ったが、左手で握りしめられて動きが停止する。
驚く相手にライが重心を引いて体当たりを仕掛けた。すさまじい勢いに耐え切れず、右腕が拘束から解放される。
「獲った」
「ぐっ!」
再び得た好機をライは見逃さなかった。相手が体勢を立て直す事が出来ない中、すれ違いざまに弧月を横一閃に振るう。
致命傷だった。体が耐え切れず、トリオン体が崩壊する。
「——強いな」
最後に称賛の言葉を残して灰色髪の少年・村上は戦闘を離脱する。
鈴鳴支部所属 仮隊員 攻撃手志望 村上鋼
『10本勝負終了。勝者、紅月ライ』
機械音がライの勝利を告げ、模擬戦が終了した。
紅月 〇〇〇×〇 ×〇〇×〇 7
村上 ×××〇× 〇××〇× 3
結果は7対3。村上が休憩を挟んだ後半戦で追い上げるも、折り返し地点以降のみでも勝ち越しは許さずにライが勝利を収める。
「いや、君は大したものだよ」
三か月のトリガー経験値がある上に彼よりずっと多くの戦闘を経た自分を追い詰めたのだから。未だ訓練生ですらない立場でありながら非凡の実力を示した村上に、ライもただただ感心した。
————
「お疲れ様。訓練でわかっていたつもりだったけど、やっぱりライ君はすごいな。鋼の副作用の事を知っていたから、休憩を挟めば逆転も狙えるかもと思っていたのに」
「ええ。贅沢な訓練相手だったと思うわ。ありがとうね」
ライと村上が訓練室から戻ってくる。この二人の戦いを観戦していた来馬や黒髪でおかっぱの女性——今は驚きと感嘆をもって来客であるライを讃えた。
鈴鳴支部所属オペレーター 今結花
副作用。トリオン能力の高いものに稀に発現するという能力の事だ。とても希少な超感覚であり、能力が高ければ必ず発現するというものでもない。ボーダー内でも発現者は両手で数えて足りる程しかいないだろう。
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