副作用
村上もこの能力を持っていた。彼の能力は『強化睡眠記憶』。睡眠による記憶の再編成能力が異常に高く、それにより恵まれた学習能力を手にしている。
村上は弧月を使う事を望んでいるが、鈴鳴支部には弧月の担い手はいなかった。トリガーに慣れる為、もしよければ同じ剣を持つ彼に相手をしてほしいという来馬の要望から行われた訓練は、予想をはるかに超える斬り合いで皆時を忘れる程だった。
「俺からも感謝する。再現したトリオン兵とは比べ物にならない経験になった」
「そうかい? それならよかった。一応先輩として役に立てたなら何よりだよ」
「うちには弧月使いがいないからね。突然のお願いに応えてくれてありがとう」
「気にしないで下さい来馬さん。中々白熱した訓練で僕自身も面白かったです」
そう言ってライも笑う。
本来は以前来馬に誘われた通り挨拶に伺っただけだったが、彼にとっても非常に有意義な時間となった。仮隊員でありながら、村上は既にB級隊員にも引けを取らない腕を持つと感じられる。彼ほどの人物と競うのは非常に良い刺激だった。
「もし正規隊員になれればランク戦をする事もあるだろう。その時、もしよければまた頼めるか?」
「僕で良いなら、時間がある時にいつでも相手になるよ」
「なら頼む。すぐに俺も正規隊員になってみせる」
こうして二人は再戦の約束を交わす。自信にあふれた発言だ。きっと彼の言葉通り村上はすぐにB級に昇格するのだろう。
来馬も先日正規隊員入りを果たした。
おそらく次期ランク戦中に来馬隊として新たな波を起こすとライは確信する。
「そういえば、ライ君ももう正規隊員なんでしょう? 既存の部隊に入ったり、新たに部隊を作ったりする予定はないの?」
「……うん。もう少し隊員やランク戦の事を知ってから判断しようと思っているんだ」
「そう。あなたほどの腕ならうちも大歓迎なのに」
「実力を評価してもらえるのは嬉しいよ。ありがとう」
今から部隊の話を振られるが、ライはありきたりな返答をするにとどめた。誘いはありがたいが、おそらく支部への異動は難しいだろう。
彼らは知らない事だが、ライの持つ事情の為に上層部が本部から彼を出す事を容認するとは考えにくい。
「そうだね。でもどこの隊に入るとしても、疑問や悩みがあるならいつでも相談に乗るからね」
「ありがとうございます」
良心から助けになると語ってくれた来馬に、ライは礼を述べた。年上という事もそうだが、それ以上に彼の人柄なのだろう。来馬の真っ直ぐな感情が伝わってきた。
「お疲れ様でーす! お茶入れてきましたよ!」
「太一、ちょっと気をつけてよ!」
「大丈夫ですよ、今先輩」
すると、席を外していた別役がお盆に人数分のお茶とお茶請けを載せて運んでくる。
鈴鳴支部所属 仮隊員 狙撃手志望 別役太一
村上と同じく5月の入隊式で訓練生となる予定の仮隊員だ。
落ち着きがないのだろうか、どこか足元がおぼつかないように見える。今が注意を呼び掛けるが、別役は調子がよさそうに返答してスピードを緩めようとはしなかった。
「あっ!」
そして今の嫌な予想が的中する。
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