ハーメルン
REGAIN COLORS
エリン家のライ

 彼にはあらゆる可能性がありふれていた。
 些細な切欠で始まりの舞台さえ変わりかねない彼の物語は、一つ歯車がずれただけで、辿る未来が全く異なる様相を呈しただろう。
 これはとあるイフの物語。あるいはありえたかもしれない、もしものお話。






(……結局ハイレインの真意は読み取れぬままか。エネドラの件が本気だとして、果たして遠征の影響がこちらに及ばぬのかどうか)

 近界の中でも最大級の軍事国家・アフトクラトル。『神の国』とも呼ばれるほど勢力を拡大した大国だ。
 そのアフトクラトルに属するエリン家の領土の建物の下、物思いにふけりながら廊下を歩く影があった。
 クリーム色の髪形に頭の左右から生えた二つの角が特徴的なまだ幼さの残る少年。16歳という若さで玄界への遠征部隊に選ばれたエリート・ヒュースだ。

(万が一、金の雛鳥を確保できなかった場合にハイレインの動きがどうなるか。あいつに注意するよう警告はされたものの、ハイレインも警戒しているのかこちらに手の内全てを明かそうとはしない。俺が年少だからと油断する事もない。さて、どうしたものか)

 悩みの種はまさにその遠征についてだった。
 アフトクラトルはまもなく惑星そのものを形作る母トリガーの生贄となった神の寿命が尽きようとしている。ゆえにその神の代わりとなる『次の神』の探索および確保を目的に次の遠征が行われようとしていた。
 だが、ここで問題が生じる。
 今回の遠征部隊のトップとなるアフトクラトルを代表する四大領主の一人・ハイレイン。エリン家はハイレイン直属の当主であるためにヒュースが遠征部隊に派遣される事になったのだが、この遠征には裏があると進言する者が現れた。

(たしかに遠征で必ず目的が達成されるという保証はない。あの男を信じ切るのは危険か)

 遠征先でそう簡単に神となる逸材が現れるとは限らない。その場合、領土内で最もトリオン量が多いものが『次の神』に選ばれるという噂が流れていた。そしてトリオン量がもっとも多いものこそエリン家の当主、すなわちヒュースの主君にあたる。

(とはいえそれを理由に断るわけにもいかない。俺が断ればハイレインに主を生贄に捧げる大義名分にされてしまうリスクもある)

 『次の神』に、生贄に主君が捧げられるような事になればヒュースは自身が必ず抵抗するだろうと確信していた。それは向こうも同じ事だろう。ならばもしもハイレインが遠征先で目的を果たせなかった場合、前もって邪魔者を排除するためにこちらを害するという可能性は捨てきれなかった。

(どうしたものか)

 せめて遠征前の最後の会議でハイレインから真意を探れればと参加したものの、結局上手くあしらわれてしまい、真相は不明だ。
 このまま本当に遠征へ向かっていいのか。万が一主が危機に陥った際に主の下に馳せ参じる事が出来ない可能性がある。そんな考えがヒュースの思考を重くしていた。

「おかえり、ヒュース。会議はどうだったんだ?」
「む?」

 すると思い悩むヒュースに声をかける男が現れる。
 廊下の反対側から歩いてきたその人物は、銀髪に碧眼、整った顔立ちに線が細い体形。人々の視線を釘付けにする容姿に柔らかい物腰が相まって魅力にあふれていた。

「——ライか。残念ながら報告できるような進展はない」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析