エリン家のライ②
空中を泳ぐように巨大な鋼鉄の塊が飛行する。
硬い鎧を纏った機械の蛇を彷彿させるトリガー兵・イルガーだ。
自爆モードに入った個体は強固な鎧を身に纏うとすべてのトリオンを使って目標に向かって突き進み、強大な爆撃で多くの犠牲を生み出す破壊の化身と化す。
そのイルガーが、群れをなして敵の本拠地である施設へと突撃した。
敵もこれ以上好きにはさせぬと砲台を解放するが、そう易々と装甲を打ち破れるほどイルガーの装甲は柔ではない。迎撃を掻い潜ると二体のイルガーがあっさりと基地へ衝突し、大きな衝撃音が戦場に響き渡った。
あらゆるものを一瞬で粉々にする威力に、しかし敵の本拠地はその形を維持していた。基地の外壁はわずかに陥没した程度で亀裂すら走っていない。よほど防壁の強化に努めていたのだろう。
だが、安心するにはまだ早い。攻撃の手は緩むことなく加速した。さらに二体のイルガーの後を追っていた三体のイルガーが基地に向かって突撃する。
今度こそ防壁を打ち砕くであろう第二波の襲来に、敵は砲撃を一体のみに集中させ、確実に手数を減らそうと試みた。
さすがの攻撃にたまらず被弾したイルガーが機能を停止し、ゆっくりと地面に墜落していく。
それでも残る二体のイルガーは無傷のままだ。勢いそのままに敵の基地へと襲い掛かり――
「させねえよ」
二筋の光が瞬くと、イルガーの巨体を切り裂いた。
基地の屋上から飛来したその人影は、アフトクラトルの面々は知ることの無いことであったが、敵の――玄界の最強の戦士・太刀川であった。
太刀川が振るった二刀の弧月は硬いイルガーの装甲をも貫き、撃墜した。
結果、一体のイルガーは生き残ったものの敵基地はかろうじて衝撃に耐えきり、すぐさま外壁の修復を始めていくのだった。
――――
「なんで追撃しねえんだよ!? もう少しで陥とせただろうが!?」
アフトクラトルの遠征艇に怒声が響き渡る。
声の主は黒トリガーの一人、エネドラだ。
気性が荒い彼は今の攻撃が不満だったのだろう。指揮官であるハイレインを前に遠慮すること無く苛立ちをぶつけた。
玄界との戦闘が始まってから未だに大きな戦果を得られていない。その中で敵の本拠地を機能停止に追い込める機会だったのに、どうしてそうしなかったのかとエネドラには理解できなかった。
「今回の目的が制圧だったならばその手もあっただろう。だが今の攻撃はあくまで敵戦力の把握と分散が狙いだ。そんな中でわざわざ敵に強大な力を持たせるような機会を与える必要はない。そういうことだろう」
そのエネドラの疑問に指揮官に代わって答えたのは彼の正面に座る銀髪の少年、ライだった。
強大な力、すなわち黒トリガーだ。
追い込まれた敵は己のすべてのトリオン能力を、命をかけて抵抗する事も珍しくない。そして一つのトリガーで戦局がひっくり返りかねないのが黒トリガーだ。
だからこそ今はそんな事をする必要はない。ライは冷静にエネドラを諭すのだが。
「そんな理屈知らねえよ。育ちの良いお坊っちゃまたちには必要かもしれねえけどな。敵は殺せるときに殺しておくのが良いに決まってんだろ」
「……戦術的にはそれでも良いかもしれないね」
エネドラは取りつく島もない様子でライの意見を切り捨てる。
聞く耳を持たない態度の相手に、ライはハイレインの思惑を強く感じ取り、曖昧に言葉を濁すのだった。
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